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大沢在昌さん タフで美しい夢のヒロイン

読売新聞 / 2024年6月28日 15時15分

『もっとも危険なゲーム』ギャビン・ライアル著/菊池光訳(ハヤカワ文庫) 品切れ

 米の作家チャンドラーにセンチメンタルなリリシズムがあるとすれば、ギャビン・ライアルの魅力は「シニカルなユーモア」だ。中でも、高校生で読んだ『もっとも危険なゲーム』は、印象深い。「『深夜プラス1』はタイムリミットサスペンスの面白さ。この作品は、主人公のロマンティシズムと、格調高い文体が素晴らしい」

 舞台は第2次世界大戦から十数年が過ぎたフィンランド。水陸両用機のパイロットとして静かに暮らすビル・ケアリは、熊を撃ちに来たという米国の富豪をソ連国境付近に連れて行き、トラブルに巻き込まれる。窮地に追い込まれる中で、ケアリの過去も徐々に明らかになる。

 作中でケアリが出会う女性が、富豪の妹であるアリス・ビークマンだ。鳥を撃って「自殺をしたいから銃を貸してくれと言ったのよ」とうそぶき、さばいて料理する。車のレバーの扱い方は〈プディングを混ぜる手つき〉だ。「タフで、美しくて、素晴らしいセリフがどんどん出てくる。俺にとって夢のヒロイン」。大戦後、くすぶっていた主人公が、失ったものを取り返していく冒険小説を、ヒロインが あでやかに彩る。「主人公を含めて、色気たっぷりなんだ」

独特の文体 名訳も魅力

 そして、作品を語る上で欠かせないのが、菊池光さんの名訳だ。「ロバート・B・パーカーとディック・フランシス、ギャビン・ライアル。この3人は菊池さんの訳じゃないと。それで育った人間にとっては」。翻訳者が作り上げた独特の文体が、作品に新たな魅力を加えてきた。「あの頃の名作で、もう手に入らないものは、たくさんある」。中高生時代、ハードボイルドや冒険小説の主だったものは片っ端から読んでいたという作家は、少し寂しそうに語った。

 デビューから45年、数々の文学賞を受け、人気作家となった。いまも執筆を続ける原動力は「誰も書いたことのない小説を書きたい」という変わらぬ思いだ。そして「何を書いても、時間がたって戻ってくるのは、ハードボイルド」と語る。

 「今回挙げた4冊を読んだ時の興奮や感動を、読者に追体験してもらいたい。今となっては古色 蒼然 そうぜんとした物語かもしれないけど、俺の世界観や主人公によって面白いと思ってもらえれば、書いている意味はあると思う」(川村律文)(おわり)

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