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異色のアイドル、指原莉乃を生んだAKB48選抜総選挙の熱狂とは何だったのか

読売新聞 / 2024年7月7日 15時30分

ささやかに行われた第1回総選挙こぢんまりと行われた第1回(2009年)

 AKB48の活動の中で最も注目を浴びたのは、2009年から10回行われた「選抜総選挙」だ。新曲を歌うメンバーを決めるファン投票の結果を発表するイベントが、いつしか人間ドラマが見られる面白さなどが注目されて社会現象になった。あの熱狂は何だったのだろう。(編集委員・祐成秀樹)

生中継の視聴率20%「絶対にAKB48を壊しません」

 2013年の第5回総選挙は驚くことばかりだった。会場は横浜市の日産スタジアム。順位発表とスピーチを見聞きするイベントを、7万人が見つめ、フジテレビによる生中継の平均視聴率が関東地区で20%を突破した。そして指原莉乃さん(31)が初の1位になった。「ヘタレ」と呼ばれた異色のアイドルが15万570票も獲得し、エースの大島優子さんを上回ったのだ。発表後、目をまん丸にした指原さんの表情と「絶対にAKB48を壊しません」という宣言が忘れられない。

 元々新曲を歌うメンバーは総合プロデューサーの秋元康さんが選んでいたが、ファンから「自分の推すメンバーが選ばれない」といった不満の声が上がり、09年からCDに付いた投票券などがあれば誰でも参加可能な選挙による選抜を年に1回行うようになった。

第1回の観客1000人「メンタルが削られるイベント」

 第1回は東京のライブハウス。観客約1000人とアットホームな雰囲気ながら、メンバーは切実だった。順位が発表されると、うれしくても悔しくても大半が涙を流した。5位だった高橋みなみさん(33)が振り返る。「メンバーもファンも悲喜こもごも。多感な時期の女の子にとってメンタルが削られるイベントでした」

 当面の仕事内容を左右する「人気」が順位を付けられてさらされるストレスが大きかった分、スピーチで「本気の言葉」が飛び交った。その後の総選挙で高橋さんは「努力は必ず報われる」「人生は矛盾と闘うもの」などの名言を残した。「総監督もやりましたから、みんなを引っ張る言葉を勉強した。スティーブ・ジョブズのスピーチとか、少年漫画で太文字になっている言葉とか、色んな所から盗ませてもらいました」

 横山由依さん(31)は話すどころでなかった。第3回に19位で選抜入りを決めた時、過呼吸になってしまった。「極限まで追い込まれた後、うれしくなったからでしょう」。同時に投票してくれたファンに感謝した。「私たちは大人数で活動するのでライブでサボることができますが、私は絶対手を抜かないし、出来ることを精いっぱいやった。それを見てくださった方がいたのでは」

広がる熱狂、彼女たちに夢託す

 人気拡大と比例して会場は日本武道館、日産スタジアムなどと広大に。第4回からはフジテレビ系の生放送特番が始まった。「通常のトーク番組では得られないリアルな表情が生まれ、どんなハプニングが飛び出すか分からない」(TVプロデューサー)、「現実の社会では夢をあきらめてしまった人が、自分の代わりに彼女たちには夢を (つか)んで欲しいと願うのでしょう」(秋元さんが連載エッセーで引用した業界人の発言)など本紙には総選挙が盛り上がる理由を分析する言葉が躍った。

 14年に渡辺麻友さんが1位になった時は「3万5000票以上は中国に住むファンが投じた」、16年に新潟市で開かれた時は「経済効果15億円」という記事も出た。これほど注目された要因の一つに、様々なドラマが見られたことがある。

 第1回総選挙は1位が前田敦子さん、2位が大島優子さん。第2回で大島さんが逆転すると「政変」と報じられた。顔ぶれが変わらなかった上位7人は「神セブン」と呼ばれ、グループを代表するスターとして活動した。そこに「下克上」を起こしたのが指原さんだ。

「生き方の全てのを見せたい」

 当時のAKB48は「生き方の全てを見せたい」として、メンバーをテレビ番組の過酷な「むちゃぶり企画」に送り込んだ。指原さんは荒天の富士登山、ブログの1日100回更新などの「荒行」は達成した。だが、バンジージャンプには2度挫折し「ヘタレ」と呼ばれるようになった。「私が飛ばないと番組は終わらないのに飛ばなかった。マジで怖かったんですよ」

 それでも負けない姿とリアクションの面白さが共感を呼び、第4回で4位に浮上。だが、私生活についての週刊誌報道もあり、福岡が拠点のHKT48に移籍した。そこで後輩たちと奮闘する姿などが、ファンの心に火を付けて冒頭の通り1位になった。「すごく応援してもらえて幸せでしたし、すごく大変でした。色んな方向性でも頑張れば1位になれると、後輩たちに常に示せる自分でいたいと思っています」と指原さん。その後、秋元さんは彼女がセンターで歌う「恋するフォーチュンクッキー」のために「人生捨てたもんじゃないよね」という一節が印象的な歌詞を書いた。

 18年に「開催10回を数え大きな区切りを迎えた」として以後、総選挙は開かれていない。「個々鍛錬し、どうセルフプロデュースしていくか。自分との闘いに目を向けさせてくれました」と高橋さんは意義を語る。

距離の近さ・ファンの絆・頑張る姿…はまる

 なぜAKB48にはまるのか? ファン歴18年のひろさん(50)と、16年のけんけんさん(35)が挙げるのは、専用劇場と握手会があるグループ特有の距離の近さだ。「感想を直接伝えた結果のフィードバックがあるとまた見たくなる」とけんけんさん。ファン同士も近い。「最初の頃はサッカーのゴール裏みたいでした」とひろさん。終演後は幅広い年代のファン同士で飲みに行き、語り合ったという。

 こうした「絆」は第1回総選挙から生かされた。けんけんさんは後発のチームB推しだった。「みんな知名度を上げるチャンスと考えました」。ひろさんは佐藤亜美菜さん推しの友人に協力。8位に入り感涙にむせぶ姿を会場で目撃した。

 国民的イベントになると、「地方グループのファンがすごい熱量でした」とひろさん。けんけんさんは「1票だけでも」とチラシを配るファンに感動した。「その人が推した子はシングルのカップリング曲を歌うメンバーに入った。『ちりも積もれば山になる』んですね」

 今もファンを続けている。「17、18期生がかわいい。今の子たちが、前田さんや大島さんが歌っていた曲を歌っても古臭く感じません」とひろさん。「頑張っている研究生を見ると正規メンバーになるまで応援しようと思い、正規になると選抜に入るまで応援しようということが続いてます」とけんけんさん。

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