「会いに行けるアイドル」AKB48の全力パフォーマンス、専用劇場で繰り広げられたドラマ
読売新聞 / 2024年7月6日 15時30分
「会いに行けるアイドル」というAKB48のコンセプトを具現化しているものは、2005年12月の旗揚げ以来、連日のように公演を続けてきた専用劇場・AKB48劇場だ。定員250人の小空間で繰り広げられたドラマを紹介しよう。(編集委員・祐成秀樹)
初公演の観客は7人「頑張り方が分からなかった」
「よっしゃ、行くぞ!」。派手な照明の中で躍動するメンバーにファンが熱い声援を送る。東京・秋葉原のディスカウント店「ドン・キホーテ」8階の専用劇場でおなじみの風景だ。既存施設を改装したため客席前方に2本の柱が立つが、14面ものセリを備え、壁面が回転する本格的な舞台は魅力を引き立てる。
AKB48は「おニャン子クラブ」を育てた作詞家・秋元康さんが総合プロデューサーを務める、テレビが主導しない小劇場発のグループだ。画期的な分、最初は苦戦して2005年12月8日の第1回公演の観客は7人だった。「当時私は14歳。頑張らなきゃと思いつつも、頑張り方が分かりませんでした」と高橋みなみさん(33)は振り返る。
夏まゆみさん「振り付け変える」が悔しくて
その答えは、努力すること。レッスンを指導したのは「モーニング娘。」を育てた振付師の夏まゆみさん。「ダンス劣等生」だった高橋さんが踊りを覚えられないと「振り付けを変えるね」と宣告された。「自分の力のなさを見せつけられた。その悔しさからダンスを練習する時間を増やしました」。やがて、力を付けると夏さんは見逃さず「高橋みたいに踊れるといいね」とメンバーに言ってくれた。
一方、全力パフォーマンスはファンの心を捉え、翌年2月には早くも満員に。「自分が行かなかったら客がいないというプレッシャーがあったのかも。私たちは、いやが応でも幕が開くのでやらないといけない。頑張れば人が集まるという感触を持てました」。後に高橋さんは様々な場で「努力は必ず報われる」と発言するようになるが、実感する経験を重ねていたのだ。
指原莉乃さん「衝撃的だった」
AKB48は普及初期だったSNSを活用して人気を拡大した。大分県の引きこもり気味の中学生だった指原莉乃さん(31)は公式ファンクラブ「柱の会」のブログに注目していた。「ファンだった佐藤由加理さんが、しいたけにはまっていると知り、大分名物のしいたけハローキティのストラップを贈ったら、ブログに載せてくれてめちゃくちゃうれしかったです」
初めて劇場を訪れた時はチケットが取れず外でモニターを見ているとスタッフが「端っこで良ければ」と入れてくれた。「すごい至近距離でパフォーマンスしているのが衝撃的でしたね」
07年の5期生オーディションに合格。秋元さんはトークの才能を見抜いていたようで、指原さんに
劇場で磨いた話術を生かして、今やバラエティー番組では欠かせない存在だ。「毎日劇場に立たなきゃいけないので鍛えられた。自分ではトークの才能があると思っていませんが、AKB48にいたからテレビでの立ち居振る舞いに早く順応できたと思います」
横山由依さん「ついていくのに必死」
09年に横山由依さん(31)は9期生オーディションに合格した。当時グループは初の武道館公演に成功するなど上り調子だった。「ついていくのに必死。何か1番になれるものがほしいと思いました」。そこで敢行した一つは劇場の楽屋掃除だ。「一番最初に掃除道具を取りに行くため、自分の支度を素早く済ませました」。公演があった日は帰宅後も練習を欠かさなかった。
劇場にはグループの広報担当だった西山恭子さんがいつもいて助言してくれた。「『手を抜いてた』なんて怒られました。爪が伸びてるとか、疲れてたとか、細かい変化にも気付いてくださった」
ある日、急にユニット曲の代役を務めたが、担当パートが歌えなかった。楽屋で落ち込んでいると西山さんが「この先も曲があるのだから、泣いちゃダメ」と背中を押してくれた。「ステージに立つことや、人前でパフォーマンスをする覚悟を教えてくれたのが秋葉原の劇場でした」
みんなが猛ダッシュした「秋葉原大運動会」
最後に劇場でのドラマと間近で接してきたベテランスタッフ・郡司善孝さん(48)と吉田竜央さん(45)に挙げてもらった忘れえぬエピソードを紹介する。吉田さんは初期の異様な熱を象徴する「秋葉原大運動会」を推す。06年の1周年記念公演の日、混乱を避けるため、チケット購入用の整理券の配布場所を当日朝に発表したところ、劇場付近で待っていたファンは一斉に動いた。「みんな猛ダッシュ。足音がすごかった」と吉田さん。
大島優子さんのトイレ掃除「この子はすごいな」
郡司さんは10年の選抜総選挙で1位になった大島優子さんが「劇場のトイレ掃除をする」という公約を果たしたことを挙げる。「大島さんはずーっと黙々と掃除をした。何に対しても手を抜かない。この子はすごいなと思いました」
彼女たちにプロの厳しさを教えた劇場は今年9月から大規模なリニューアル工事に入り、19周年当日の12月8日に再開場する予定だ。
将来性確信、「観客神セブン」の「スクランブルエッグ」岡田隆志編集長
AKB48の初公演を目撃した7人は「観客神セブン」と呼ばれている。その一人がアイドル総合情報サイト「スクランブルエッグ」の岡田隆志編集長だ。「その頃の秋葉原はグラビアアイドルのイベントが全盛。AKB48の話を聞いた時、何で秋葉原なのかと感じました」
初日の感想は「お金がかかっている。舞台や照明、楽曲、衣装が洗練されていた。素人に近いメンバーを集めてプロ仕様の劇場でショーを組み立てるというアンバランス感がすごいと思いました」。7日のゲネプロ(通し稽古)と10日の公演も見た結果、将来性を確信した。「私は踊りや歌の上手下手より、目の輝きなどを重視しますが、3回見て変化をはっきり感じました」。それからファンとの絆が輝きを強めた。「メンバーは応援してくれる人が分かると、目線を送ってニコッとする。アイドルの基本である笑顔を作るトレーニングが出来て、かわいくなっていくんですよ」
また、岡田編集長はAKB48の魅力の一つに衣装へのこだわりを挙げる。前回紹介した柏木由紀さんは最後の舞台で「卒業ドレス」を着た。「卒業時に特別なドレスを作ってもらえることはメンバーのモチベーションを高めると思います」
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