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手加減なしの面白さ、オーストリア映画を渋谷で特集…ブラックな娯楽作も珠玉のドキュメンタリーも

読売新聞 / 2024年6月27日 14時0分

「クラフ〓セ〓ロ」=(c)COOP99, CLUB ZERO LTD

 オーストリアの芸術と聞いた時、クラシック音楽や19世紀末絵画を真っ先に思い浮かべる人が多いだろう。でも、今週末から開催される「オーストリア映画週間2024 Our Very Eye−揺るぎなき視線」(6月29日から7月5日まで、東京・渋谷のシアターイメージフォーラム)で上映される7つの個性的な作品を見たら、頭の中がきっとアップデートされる。すべて日本初公開の新作で、どれも手加減なしの面白さだ。

結末にりつ然

 上映作品のうち、多くの映画ファンが注目しているはずの作品が、2023年のカンヌ国際映画祭のコンペ部門に出品されたジェシカ・ハウスナー監督「クラブゼロ」。描かれるのは、名門校で学ぶ10代の少年少女が、新任の栄養学教師(ミア・ワシコウスカ)の極端な教えにのめりこんでいくさま。「ハーメルンの笛吹き男」に相通ずる雰囲気も宿す映画で、端正な映像で描かれる学校・家庭生活の向こう側に、底知れない深淵がぱっくり広がっている。

 オーストリアはミヒャエル・ハネケ、ウルリヒ・ザイドルといった異能の現代映画作家たちを生み出してきた。既に国際的な評価を確立しているハウスナーはハネケに師事した人だが、今回の特集ではザイドルの流れをくむ監督たちの作品も2本上映される。「デビルズ・バス(仮題)」(監督:ヴェロニカ・フランツ、セヴリン・フィアラ)と、「我来たり、我見たり、我勝利せり(仮題)」(同:ダニエル・フーズル、ユリア・ニーマン)だ。いずれもザイドルが製作を務めた。

 「デビルズ・バス」は、18世紀の農村に生きる若い女の究極の選択を、手加減なしで描くダークな一本で、歴史の闇に沈んでいた女たちの存在をショッキングにあぶり出す。監督の一人、フランツはザイドル作品の脚本も手がけている。

 「我来たり、我見たり、我勝利せり」は、現実を鮮烈に撃つブラックな娯楽作。不公平がまかり通る社会をあっけらかんと戯画化したファミリードラマで、起業家として巨万の富を得た男のやりたい放題の果てに待つ結末にりつ然とさせられること請け合いだ。スウェーデンのリューベン・オストルンド監督による「逆転のトライアングル」とどこか重なる世界観の作品だが、救いのなさは、こちらのほうが上かもしれない。

見逃せない「ウィーン10区、ファヴォリーテン」

 これら3本は既に日本での配給会社が決まっているが、それ以外の作品も見逃せない。中でも、ドキュメンタリー「ウィーン10区、ファヴォリーテン」は見逃してほしくない珠玉作だ。舞台は、伝統的な労働者の街であるファヴォリーテン地区の小学校で、生徒はほぼ全員が移民の子供。多様な民族的・文化的背景を持つ子供たちが一緒に学ぶ学級を、監督のルート・ベッカーマンは3年にわたって追いかけた。熱意ある教師と個性的な生徒たちのにぎやかな日常は見ていて単純に面白くいとおしいのだが、見ていると自然に考えたくなる。たとえば、公共教育の役割や課題を。たとえば、互いの違いを尊重して生きるために必要なものを。教育現場における人材・予算不足などひとごとではない問題にも触れられている。

 「無用物」は、大ヒットした「いのちの食べかた」のニコラウス・ゲイハルターによるドキュメンタリー最新作。人間が日々、大量に生み出しているゴミの行方を、端正な映像でとらえた作品。ゲイハルターならではの凝視を誘う映像世界を体験した後は、自分のライフスタイルを見直したくなるはずだ。できるかどうかは別として。

 このほか、注目の若手、ミレーナ・チェルノフスキー監督の「ベアトリックス」、アーティストとしても知られるエドガー・ホーネットシュレーガーによる「ミダースの蟻」が上映される。(編集委員 恩田泰子)

◇公式サイトhttps://www.imageforum.co.jp/afw2024/

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