岐阜の絶景観光、飛騨小坂の滝と湿原を巡る…下島温泉の高濃度炭酸泉で体を癒やす
読売新聞 / 2024年7月5日 16時45分
滝の
スタートは溶岩の絶壁を楽しむ「がんだて公園」
「ようこそ、いらっしゃいました」。東京から新幹線、特急ひだ、在来線を乗り継ぎ、JR高山線飛騨小坂駅の歴史ある木造駅舎に到着すると、滝めぐりガイドの
駐車場の眼前にそびえ立つ溶岩の絶壁「
ここから御嶽山頂まで2000メートル以上の標高差がある。その
初心者コースで三つの滝、マイナスイオンを浴びる
私たちは、川沿いの遊歩道から森へと登り、そこから下って人工湿原を経て戻ってくる3時間ほどの初心者コースを歩いた。途中、三つの滝が見られる。川沿いの遊歩道に入ると、一気に気温が下がった。「冷たい川の流れのおかげで、真夏でもここは20度台ですね」と、熊崎さん。透き通った川に、イワナとアマゴの魚影を見た。途中に「本日のマイナスイオン」と書いた立て札があり、この日は、1ccあたり5700個とある。「一般家庭では0〜100個程度」と書いてある。熊崎さんは「80代の先輩ガイドが元気なのも、このおかげかもしれませんね」と笑った。
遊歩道を歩き始めて10分ほどで、早くも最初の滝「三ッ滝」に到着した。上段6メートル、中段11メートル、下段5メートル。熊崎さんは「面白いのは、正面からだけでなく、上から、横から、後ろからと、遊歩道に沿って滝をなめ回すように見られることです。そういう場所は全国的にも珍しいと思います」と話した。確かに、駐車場からわずか10分のところで、これほど入念に滝を観察できるのはうれしいではないか。
ハンモックで「天空の城ラピュタ」気分
途中で遊歩道から登山道に入り、しばらく登ると、溶岩台地の頂上に広がる森に入った。熊崎さんが指さす地面を見ると、青みがかった半透明の小さな植物が生えていた。ギンリョウソウという腐生植物で、森の中では、ぼうっと、おぼろげに浮かび上がっているように見える。その様子からユウレイソウとも呼ばれるそうだ。熊崎さんは「梅雨の使者です。これが生えると梅雨がきます」と説明した。
原八丁と呼ばれるこの森は、昔は木を切って炭焼きが行われていた。つまり、原っぱが広がっている光景だったのだ。炭焼きが行われなくなった今、わずか数メートルの浅い腐葉土に樹木がほぼ水平に根を張っている。歩くと、ふかふかした弾力を感じる。空中に浮かぶ森は、すぐに反対側の端に着いた。はるか下を流れる
人の営みが生んだ映えスポットの湿原
御嶽山の登山道は、江戸中期の
山岳信仰のため古くから人々が訪れたこの溶岩流の渓谷は、江戸時代から林業で栄えた場所でもあり、木材の運搬形態は、舟運から森林鉄道、トラック輸送へと変わってきた。登山道には今も森林鉄道のレールが残っている場所があり、クマ除けの鐘や、ガードレールとして活用されてもいる。
コースは下りに入り、突如現れた湿原の美しさに息をのんだ。周囲の樹木が鏡面のような水面に映っている。秋の紅葉時期は、ひときわ美しいという。肉眼で見るよりもカメラで撮影した方がきれいに見える映えスポットである。
「この台地には水がないはずなのに、なぜ湿原があるのでしょう」。熊崎さんがそう問いかけて説明を始めた。「ここは人工の湿原です。もともと局所的に降雨後の水がたまりやすい場所で、林業が盛んだった頃は木材集積場でした。その役割を終え、草木が生い茂っていたのを近年、商工会とNPOの活動で復元し、湿原を取り戻したんですよ」
「どんびき平」という通称で呼ばれるこの湿原は、カエルの楽園でもある。どんびきとは、地元でカエルのこと。いろんな種類のカエルが生息しており、水面に突き出た木の枝にモリアオガエルの卵塊を見つけた。集団で木の枝に泡状の卵を産むのが特徴で、オタマジャクシになって池に落ちるそうだ。テレビで見たことはあったが、実際に見るのは初めてだった。熊崎さんは、「人が手を加えることで生まれた生態系と言えます。ポジティブな変化ですね」と話した。
ただ、この環境を守っていくには、繁殖力の強い植物の刈り取りなど手間がかかる。飛騨小坂200滝のメンバーなどで行っているが、この地域も高齢化率が高く、慢性的な人手不足だ。最若手メンバーの一人である熊崎さんは、「まずは来てもらって、好きになってもらい、手伝ってくれる人が出てくればありがたいですね」と話した。
「滝とともに生きる」、ガイドと歩く楽しみ
トレッキングコースはいよい終わりに近づいた。最後に訪れたのは、落差15メートルの「
「滝とともに生きる。それが私の人生です」。生まれも育ちも飛騨小坂という熊崎さんは、ゴールへと歩きながら話した。「地元の人たちがここの滝のことを調べ上げて、僕が生まれた昭和58年(1983年)に発刊された写真集があるんです。ほとんどの滝は、子どもには行けないところだったんですが、それを見ながら育ちました。僕にとってのバイブルです」。大人になって実際に写真集の滝を訪ね、ますます滝の魅力にはまった。熊崎さんは「滝は生きています。季節や雨量によって姿が変わりますし、長い目で見れば、地形の変化によって滝がなくなったり、新しい滝が生まれたりします」と熱く語った。
飛騨小坂をベースに現在、全国の登山ガイドもしているという熊崎さんは、ほかの山を登ることで新しい発見があり、自分たちの抱える課題も見えてきたという。「でも、やはり小坂の滝が一番ですね」と自信を見せる。春と秋は滝めぐり、夏は沢を登るシャワークライミング、冬は
「ぜひ世界中の人たちに訪れてもらい、飛騨小坂の魅力を発見してほしい」。熊崎さんはそう願っている。
高濃度炭酸泉の宿、しゅわしゅわと肌に泡
この日は近くの下島温泉の宿「
さっそく露天風呂と内湯につかった。屋外にある川沿いの露天風呂は、石の湯船から濁河川を見渡せる。内湯では、源泉かけ流しの湯船があった。宿の源泉は約16度で、「冷泉」とある。鉄分など様々なミネラルを含み、しゅわしゅわと肌にまとわりつく泡が血行を促進する効果があるという。冷泉とはいえ、冷たいと感じるほどではなく、長くつかったところ、翌日、体がとても軽く、驚くほどの効果を感じた。廊下には飲泉場もある。胃腸にいいそうだ。
夕食は、4代目女将の伊藤博子さん(66)がもてなしてくれた。息子さんが釣ってきたという大きなアマゴ、名物の炭酸泉湯豆腐、飛騨牛の陶板焼き、コシアブラやワラビといった地元野菜が並び、地酒とともにどれもおいしくいただいた。1931年創業の宿は、愛知県岩倉市出身の初代がここの湯にほれ込んで開業したそうだ。
飛騨小坂の滝めぐりと高濃度炭酸泉は、ここでしか味わえない魅力にあふれている。観光化されておらず、気取らない素朴な雰囲気の中に人々の温もりを感じられる。私は、再訪を決意した。
◆この記事は、日本の地方から「おいしい、美しい、素晴らしい」を世界に紹介するジャパン・ニューズの Delicious,Beautiful,Spectacular JAPANシリーズの一つです。
英字で読むにはこちら(https://japannews.yomiuri.co.jp/original/delicious-japan/20240630-194774/)
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