官民ファンド 巨額損失を踏まえ戦略見直せ
読売新聞 / 2024年6月28日 5時0分
政策としての意義があったとしても、赤字が膨れあがることを容認されるわけではない。
政府は、官民ファンドが巨額の損失を生じさせた理由を検証し、投資手法を再考しなければならない。
国土交通省が管轄し、企業の海外インフラへの投資を支援する官民ファンド「海外交通・都市開発事業支援機構」(JOIN)が、2023年度決算で799億円の損失を計上した。
累積の赤字額は1000億円近くにまで膨らむ見通しで、総額約2500億円の投融資のうち、約4割の回収が難しくなった。
官民ファンドの多くは、政府の成長戦略の下で13年以降に設立され、主要なものは10以上ある。
これまでも海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)の累積赤字が398億円に達して問題視されてきたが、JOINは、単年度でそれをはるかに上回る赤字である。問題は大きい。
国交省は有識者会議を設置し、改善策を協議する。投資戦略の問題点を検証してもらいたい。
中国が巨大経済圏構想「一帯一路」で、途上国のインフラ整備を推進する中、政府がJOINを通じて日本企業の海外進出を後押しする狙い自体は、理解できる。
巨額損失の大きな原因は、米テキサス州での新幹線建設事業だ。JOINは米国企業に出資したが、地元の事情などで鉄道事業の先行きが不透明であるため、417億円を損失として処理した。
また、ミャンマーの都市開発事業は国軍のクーデターで中断し、179億円の損失が発生した。
官民ファンドは、民間が取りにくいリスクを官が取り、民業を補完する形で資金を投じる仕組みだ。大きな利益を出すことより、大きな赤字は出さないことを運営の原則としている。
今回の問題は、1件あたりの投資額が過大だったことが大きい。地政学的なリスクを軽視した面もある。国民負担が最小となる策を練っていくことが重要になる。
米国の事業は4月の日米首脳会談で、今後も推進する方針を確認した。日本の新幹線技術を世界に示すモデルケースにする目的もある。ただ、投資回収の可能性があるかどうかの精査が必要だ。
国交省はJOINの巨額損失の情報をHPに掲載したが、記者会見などは行わなかった。説明責任を果たしていない。
国の資金を管理する財務省は、JOINへの監視を強化し、国交省に強く対応を要求すべきだ。
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