澤田瞳子さん新刊「赫夜」、全冊サイン本に…転売対抗で初版1万冊と今後の重版分も
読売新聞 / 2024年6月29日 15時0分
直木賞作家の澤田瞳子さん(46)が、7月刊行予定の新著「
澤田さんは2021年、「星落ちて、なお」で直木賞を受賞。重厚な歴史小説、芸術小説で知られる。「赫夜」は平安時代初期の富士山噴火に苦しみながらも懸命に生きる庶民の姿を描いた。初版の約1万冊と今後の重版分も含めた単行本全てに直筆のサインと落款を入れる。
サイン本は、作家が新刊発売時やイベントで部数限定で書くことが多い。オークションサイトでは、人気作家の初版や著名な文学賞の受賞作、候補作などのサイン本が、時には定価の数倍で売買される。澤田さんのサイン本も、定価の3〜5倍の価格がついていた時期もあったという。
転売目的の購入でファンが手に入れにくくなる可能性があり、著者や出版社は、サインする際に宛名を入れる「ため書き」を増やして転売抑制を図ることもある。
澤田さんは転売を知った関係者の嘆きに心を痛め、自らサイト運営者に改善を申し入れたが、回答はなかったという。イベントなどが少ない地方に住む読者からの「サイン本が手に入らない」との声もあり、「全ての読者にサイン本を届けられないか」と考えた。
版元の光文社も、作家からの問題提起に共鳴。効率よくサインできるよう、製本前の用紙を用意した。澤田さんは自宅や出版社の会議室で、約1か月、延べ30時間がかりで初版分のサインを終えた。「望む方に望む本が届くように。本の平等性を、ひいては文化の平等性を守れるように」とのメッセージも印刷した。
通常、サイン本は書店による買い取り販売で、書店にとっては売れ残りのリスクがある。今回は光文社が流通を取り仕切る取次と話し合い、書店からの返品を可能とする異例の対応をとった。
澤田さんは「サイン本は、本を作る人、売ってくれる人たちの『読者に喜んでもらいたい』という思いで出来ている。今回は全冊にサインすることで読者に恩返しができ、作家としてとても幸せ」と語る。
出版文化に詳しいフリーライターの永江朗さんは「作家自ら、サイン本の希少価値を捨て去るという、ある意味無謀な戦術に出た。思わず笑ってしまう面白い方法で転売ヤーに意趣返しをしてみせて、読者にとっては作家の肉筆を手に出来るうれしいサービス」と話している。
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