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阪田三吉ゆかり「将棋ファンの聖地」、80年の歴史に幕…大阪・新世界「三桂クラブ」

読売新聞 / 2024年6月29日 16時0分

 天才棋士・阪田三吉(1870〜1946年)ゆかりの地で、「将棋ファンの聖地」として知られる大阪・新世界(大阪市浪速区)。その一角で唯一営業を続けてきた老舗の将棋クラブ「 三桂 さんけいクラブ」が30日で閉店する。往時は全国から腕試しに訪れる愛好家や棋士でにぎわったが、コロナ禍で常連客の足が遠のくなどし、約80年の歴史に幕を下ろすことになった。別れを惜しむ常連客が連日店を訪れている。(北島美穂)

店外からガラス越しに見物

 「王手!」「あぁ、負けた」。今月下旬、約50の将棋盤や囲碁盤がずらりと並ぶ三桂クラブの店内では、高齢の常連客や初めて訪れる中年女性、若者らが盤を挟んで向かい合っていた。将棋の駒は焦げ茶色に変色し、角は丸みを帯びている。中にはマス目が薄く消えかかった将棋盤もある。

 新世界はNHK朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」(1996〜97年)の舞台としても知られ、シンボルの通天閣の足元には阪田の功績をたたえ、大きな「王将」の駒を載せた碑が立つ。西日本将棋道場連合会によると、新世界には戦後、将棋クラブが6軒ほどあり、最盛期の1970年代まで変わらなかったが、ネット将棋の流行や娯楽の多様化で減っていった。

 三桂クラブは46年頃、3代目 席主 せきしゅ伊達利雄さん(59)の祖父が商店街「ジャンジャン横丁」で始めた。「ふたりっ子」に登場する「銀じい」のモデルになったアマチュア棋士の大田学さん(2007年に92歳で死去)も常連客の一人。プロ棋士や仕事帰りの会社員らも立ち寄った。ピーク時には200人以上の客が訪れて1階の席が埋まり、2階に案内する時もあった。

 見物客が椅子を持ってきて、ガラス窓越しに店の外から食い入るように対局を見るのが常だった。

コロナ禍が追い打ち

 伊達さんが父親の後を継いで席主になったのは約35年前。対戦相手を決めるのが仕事の一つだ。「勝っても負けても『楽しかった』と帰ってもらえるような相手選びでないといけない」と、棋力を合わせるだけではなく客の思いもくみ取る。「お客さんは十人十色。合った相手を見定めるのがこの店の持ち味」と話す。

 客の様子を見るために店内を歩き回り、靴は3か月ごとに履きつぶした。経験を重ねるにつれ、「雰囲気で大体の棋力がわかるようになった」と笑う。

 席料は1時間300円で、1日指し放題で1000円。30年以上変えることなく頑張ってきた。

 しかし、近年は外国人観光客の人通りが増え、仕事帰りに立ち寄る客が減少。そこにコロナ禍が追い打ちをかけた。休業や時短営業を余儀なくされ、家族に心配されて足が遠のいた高齢の常連客が何十人といる。店内を歩き回ることも減り、今の靴は3年ほど履き続けている。1階の席が埋まることもほとんどない。

 「お客さんをつなぐのが仕事。常連客も減り、昔のような活気ある姿は見られなくなった。潮時かなと思った」。閉店を決めた。

「もっと店を開けていてほしいのが本音」

 20年以上電車を乗り継いで店に通う兵庫県川西市の無職松浦義彦さん(81)は「もっと店を開けていてほしいのが本音」と漏らす。「伊達さんは対戦相手の見極めが上手で、昼過ぎから午後7時頃まで入り浸ってしまうほど本気で楽しめた。顔なじみの客と会えるのも楽しみだった。閉店まで毎日通う」とさみしげだ。

 西日本将棋道場連合会の北川茂会長(73)は「全国で実動する将棋道場は数えるほどになった。3代続いた三桂クラブは奇跡で、他の道場主の憧れだったのに」と閉店を惜しむ。労をねぎらい、花を贈った。

 伊達さんは「肩書や年齢にかかわらず、対等に勝負ができる場だった。長年支えてくださったお客さんに感謝したい」と語る。

 最終日の30日も通常通り営業する。

ライトノベルにも登場…著者も惜しむ「さみしい」

 将棋がテーマで、後に漫画化、アニメ化されたライトノベルの人気作「りゅうおうのおしごと!」には三桂クラブが登場し、年齢や性別に関係なく常連客らが腕を競い合う店内の様子が描かれている。

 著者の白鳥士郎さん(42)は「初めて訪れた時は、店の外から将棋を指す姿が見られるのが衝撃だった。ファンからの手紙やメールには『三桂クラブへ聖地巡礼に行きました』とよく書かれている」と話し、「将棋の聖地、新世界から将棋道場がなくなってしまうのはさみしい」と残念がった。

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