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「株価請負人」と呼ばれた東証OB、5000万円の不正利益か…上場企業を渡り歩く

読売新聞 / 2024年6月30日 12時27分

 投資家向け広報(IR)のプロとして上場会社を渡り歩いた男が、金融商品取引法違反(インサイダー取引)で東京地検特捜部に逮捕・起訴された。起訴事実に絡む取引では、経営情報を知る立場を悪用して約5000万円の不当な利益を得たとされる。事件の背景には、市場で株高が続く中、投資を呼び込むIRに長じた人材が重宝されている事情もあったとみられる。(岡部哲也)

誇示

 「俺が株価を上げたという自負はある」。今年4月下旬、東京都内で取材に応じた堀内信之被告(60)(5月16日に逮捕、今月5日に起訴)は、IR担当の執行役員を務めた東証スタンダード上場の再生エネルギー関連会社「Abalance(エーバランス)」(東京)での実績をそう誇示した。

 堀内被告は1990年から約20年間、東京証券取引所で勤務した。ジャスダック(当時)広報室長などを務めてIRの知識やアイデアを蓄え、国内外の機関投資家と人脈を構築。退所後は上場企業4社のIR部長などを歴任した。

 エー社に入ったのは、太陽光パネルを製造するベトナム子会社が工場新設に動いていた昨年1月1日のことだ。数日後にまず「子会社のCSR(企業の社会的責任)活動が世界的な評価機関から高く評価された」とアピールすると、2月には工場新設に向けた資産取得と業績予想の上方修正を自ら発表。他にも「工場増設を積極的に検討する」などと立て続けに発信した。

 エー社の株価は、入社時の2000円台から、2月中旬に4000円を超え、5月には最高値の1万3000円台に到達。頻繁に情報を出して投資家の関心を集める被告は、SNS上で「株価請負人」「歴戦のベテラン」と称された。だが特捜部の発表などによると、被告は「資産取得決定」という重要事実が公表される前の1月下旬にエー社株1万9400株を買い付け、2月中旬〜3月頃に売り抜けていたとされ、計約5000万円に上る利益を得たという。

「売り手市場」

 株高傾向が続く近年、IRに精通した人材は投資家への発信を強化したい企業に重宝されている。IRのコンサルティング事業を行う「マーケットリバー」(東京)の市川祐子社長は、「即戦力の求人が多い『売り手市場』だ」と話す。

 堀内被告も「東証出身」の肩書や知識、経験を評価され、転職先では幹部クラスに登用された。ただ、被告が勤務した会社の関係者によると、部下に威圧的な態度で接したり、社内規定に反する無届けの株取引をしたりすることも。2015年から広報・IR部長として勤務した金融サービス会社では、同社株のインサイダー取引をしたとして、金融庁から約430万円の課徴金納付命令を受けていた。

 エー社株を巡る事件で、証券取引等監視委員会が強制調査に入ったのは昨年7月。その直後に被告は退社したが、すぐに別の上場企業に採用され、広報・IR担当の執行役員に納まった。この企業は被告を逮捕当日に解任したものの、同社関係者は「実績を評価して入社してもらった。行政処分を受けていたことを知っていれば採用しなかったが……」と悔やんだ。

再発防止は

 堀内被告は逮捕前の取材に、ベトナム工場の情報について「公表の2週間ほど前には知っていたが、建設許可が下りていない段階だったので重要事実には当たらない」と説明。株取引で利益が出たことは認めつつ、「インサイダー取引はしていない」と主張していた。

 今回の事態は市場に動揺をもたらしている。エー社株を取引していた個人投資家の男性は「IRの責任者が自らインサイダー取引をするとは、あり得ないことだ」と憤った。

 専修大法科大学院の松岡啓祐教授(金商法)は、「現在の行政処分は課徴金額が低く、処分者も基本的に匿名公表で、不正防止の機能を果たすのに十分とは言えない。課徴金引き上げや一定の役職者が行政処分を受けた場合の実名公表などを検討し、市場の信頼を維持する必要がある」と指摘している。

 ◆IR(Investor Relations)=企業が株主や投資家に向けて、財務状況や業績など投資判断に必要な情報を提供する活動を指す。企業の資金集めにおいて、市場で調達する「直接金融」の比重が増す中、上場企業にとって生命線となっている。

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