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「我が国周辺でもウクライナ同様の事態が起きる可能性は否定できない」…吉田統幕長インタビュー要旨

読売新聞 / 2024年6月30日 5時0分

水陸両用車「AAV7」で上陸した隊員ら(昨年11月19日、鹿児島県・徳之島で)

 吉田統幕長の書面インタビュー要旨は以下の通り。

――国際社会は70年で幾度となく歴史的な転換を経験し、自衛隊の態勢も拡充されてきた。所感は?

 自衛隊創設後の70年間は、〈1〉米ソ冷戦期(〜89年)〈2〉ポスト冷戦期(90年代〜2010年代)〈3〉新たな大国間競争期(20年代〜)の三つに区分されていると考えている。

 18年に米国の対中政策が協調から競争へ転換したのを契機に、多極構造の下、米中の戦略的競争を主軸とした大国間競争の時代が始まった。この時代は21世紀半ばまで続くだろう。

 大国間競争の主要な正面であるインド太平洋、中でも、力による現状変更を試みる中国、北朝鮮、ロシアに隣接する我が国は、最前線に位置する。我が国周辺においても、ウクライナと同様の深刻な事態が起きる可能性は否定できない。

 こうした危機感から、新たに安全保障関連の3文書が策定され、防衛力を抜本的に強化するとともに、日米同盟の抑止力を強化することとなった。

――国際社会は力による現状変更を試みる動きへの対応に苦慮している。自衛隊はどんな役割を担うべきか?

 70年間、政府、国民、そして自衛隊の諸先輩の努力により、我が国への武力攻撃事態は一度も起きなかった。戦後最大の試練に直面している現在、我々の最も重要な使命は、引き続き我が国に対する武力攻撃を起こさせないことだ。加えて、インド太平洋地域の平和と安定にも最大限寄与することだ。

 インド太平洋地域の安全保障上の枠組みは、米ソ冷戦時代には、米国を中心として2国間同盟を放射線状につなげる「ハブ・アンド・スポーク」だった。現在は日米豪を中核としつつ、フィリピンなどの東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、インド、英国やカナダなどの北大西洋条約機構(NATO)諸国、韓国など、法の支配に基づく国際秩序を維持しようという諸国と格子状の連携を深める方向に変わってきている。

 3国間、4国間などの「ミニラテラル」の多層的ネットワークを強化し、共同演習においてできる限り多数の同盟国・同志国を結集することが、法の支配に基づく国際秩序を維持する「力」となる。自衛隊として積極的な役割を果たしていく。

――自衛隊の任務は増大している。超高齢社会では隊員の確保が一層難しくなる。難局をどう乗り切るか?

 少子高齢化が進む中で、自衛官の採用に関して抜本的な改革を行わなければならない。その1つが女性自衛官の登用。現在、全自衛官に占める女性の割合は8・7%。これを30年度までには12%以上に上げていきたい。

 女性が出産や育児で退職せざるを得なかった環境を改善し、男性の育児休暇を奨励するなど、働きやすい環境を整備していく。

 人工知能(AI)や無人化装備などを積極的に導入する。民間企業の能力やOBなどの活用によって、現役の自衛隊員でなければできない業務に隊員を集約させていく。

――入隊からの数十年間を振り返り、隊員としての信念ややりがい、自衛隊の組織風土や思考、肌で感じる国民からの視線や期待をどう感じているか?

 入隊した86年頃は、自衛隊に対する社会的な認知度は必ずしも高くなかった。(防衛大学校ではない)一般大から就職先として自衛隊に決めた時、周囲からは、やや奇異の目で見られた。この頃の自衛隊の広報は、自衛隊の認知度を上げることに重点が置かれていた。

 状況が大きく変わるのは11年の東日本大震災。直後の世論調査で、自衛隊に対する国民の支持は9割を超えた。ただ、災害派遣や国際任務への認知度が高まる中、本来の任務である「防衛」に対する理解度は必ずしも浸透していなかった。

 中国や北朝鮮の軍事活動が活発化し、次第に防衛に対する国民の関心が高まってきた。決定的な転機は22年のロシアによるウクライナ侵攻だろう。21世紀においてもこのような侵略戦争が起きるという衝撃が我々も含めて走った。

 組織風土について。自衛隊幹部の主流は防大卒で、私のような一般大卒は傍流だった。自衛隊が一般大から採用していたのは、組織が同質性に偏らないようにとの配慮だと思う。

 将官(将・将補)における女性の比率が2%に満たないことは深刻だ。

 「心理的安全性」が確保され、多様性のある「自由で開かれた自衛隊」こそ、これからの戦略環境に対応できると考えている。

 最後に、やりがいについて。「現場感覚をしっかり持った上で、安全保障戦略の策定に関与したい」という入隊の動機は、部隊勤務や国家安全保障局(NSS)勤務を通じてかなった。中隊長、連隊長、師団長、方面総監、陸上総隊司令官という指揮官職は、自衛官でしか得られない貴重な経験だった。

 現在、(自衛官の)最終ポストとして統幕に配置され、〈1〉複合事態への同時対処〈2〉統合運用体制の抜本的強化〈3〉同盟国・同志国との防衛協力の推進――という、防衛戦略の骨幹となる職務をやりがいあふれる仲間と果たしていける喜びは、何物にも代え難いと感じている。

よしだ・よしひで 86年東大卒。北部方面総監、陸上総隊司令官、陸上幕僚長。東京都出身。

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