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心からの「ありがとう」に涙 メンタル不調で退職した若者が「働きがい」を発見した出来事とは

J-CASTニュース / 2024年6月30日 12時0分

心からの「ありがとう」に涙 メンタル不調で退職した若者が「働きがい」を発見した出来事とは

あなたにとっての「働きがい」とは

上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

実際のエピソードや感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業FeelWorks代表の前川孝雄さんが「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

今回は、失意の底から立ち直ろうとした若者が、ある「出来事」から働きがいを見出したエピソードです。

リハビリで始めた仕事は...

<「この資料じゃ使えない!」「仕事の優先順位がわかってない!」 心ない上司の言葉に新入社員が失意の末に>の続きです。

Aさんは、職場を退職し療養に専念し始めると、半年ほどでだいぶ体調が回復してきました。

そこで、社会復帰に向けたリハビリを兼ねて、体調に合わせて時間の融通が利きやすい、短期派遣の仕事にチャレンジすることにしました。その仕事とは、街頭でのチラシ入りティッシュ配りでした。

人通りの多い駅前に立って、道行く人にポケット・ティッシュを手渡す仕事です。

その初日。始める前は簡単な仕事だと考えていたものの、実際にはなかなか思うようにはいきません。

「よろしくお願いします」と声をかけながら手渡そうとしても、誰も受け取ってくれないのです。1時間も経つうちに、まるで自分の存在が無視されているように感じられて、だんだんしんどくなってきました。

少し立ち位置を変えてみたり、声掛けと渡すタイミングを見計らったりと工夫をしますが、やはりうまくいきません。

次第に気持ちが落ち込んできて、うつむき加減になりました。そうなると、ますます悪循環。通行人が皆、遠回りに自分を避けていくようです。

「(やっぱり、自分はこんな簡単な仕事でも出来ないのかな...)」(Aさん)

満面の笑みで伝えられた「どうもありがとう!」

Aさんが、肩の力を落とし、あきらめかけた時...目の前に一人の初老の男性が立っていることに気づきました。

Aさんが、顔を上げると男性と目が合いました。

すると、男性はニッコリ笑って、Aさんに声をかけたのです。

「そのティッシュ、一つもらえませんか?」(男性)
「あっ、はい...。どうぞ...」(Aさん)

Aさんが思わずティッシュを1つ差し出すと、それを受け取った男性は、さらに満面の笑みを浮かべて言いました。

「どうもありがとう! とても助かるよ」

そう丁寧にお礼を言うと、足早に歩き去って行きました。

Aさんは、少し驚いたまま、しばらく男性の後ろ姿を見送っていましたが、急に涙が込み上げてきたのです。自分でもその理由がよく分かりませんでした。

自分は、なぜ涙が込み上げるほど、感情が揺さぶられたのか。またうつむき加減になりながら、気持ちの整理をしていると、またさっきの初老の男性が戻ってきて、目の前に。

「悪いんだけど、もう1つティッシュもらえるかな。今日は花粉が沢山とんでて、くしゃみがとまらなくてね。なのに、家から持ってくるの忘れちゃって(笑)」

「は、はい。どうぞ、お持ちください」とAさん。Aさんが再度ティッシュを手渡すと、男性は茶目っ気のある笑顔で、こう応えてくれました。

「本当にありがとう。助かったよ。このあとも頑張ってね!」

さっそうと去っていく男性の背中を見ながら、Aさんはこれまで味わったことのない感動に、もはや嗚咽を堪えられず、涙を流し続けたのです。

ひとしきり涙を流したあと、気持ちが整理でき、Aさんは自分の内面に起こったことに気づきました。

それは、自分が人の役に立ち、心からの「ありがとう」の言葉をかけられたことが衝撃的で、感極まったのです。大げさかもしれないけれど、働く喜びを感じられたのです。

思えば約1年前に新卒で働き始めた職場では、「ありがとう」という言葉は一度も聞いたことがなかったので、初めて働きがいを経験できたのでした。

上司も心を動かす「感謝のエピソード」

Aさんのエピソードが物語っていることは何か、考察してみましょう。

私が営む会社が開講する「上司力(R)研修」の冒頭で、講師から受講者の上司の方々に「部下の育成課題は何ですか」と問いかけると、部下の至らぬ仕事ぶりやミスなど、不満の様子がたくさん溢れ出てきます。

逆に、「部下に感謝したエピソードを思い出してください」と問い直すと...。

上司の皆さんの多くは、とたんに口数が減り、困った表情になる人も出てきます。それでも時間をとると、「そう言えば」とぽつりぽつりと「部下に感謝した瞬間」の話が出てきます。

「慣れない部署に着任して不安だった時に、部下からいろいろと教えてもらって、助かった」
「自分が体調不良で休み、仕事が滞りそうになった時に、いろいろ先回りをして済ませておいてくれた」
「部下たちが自分の誕生日を覚えてくれていて、サプライズでお祝いのメッセージをもらい、とても嬉しかった」

こうしたエピソードを紹介し合う時の上司の皆さんの顔は、とても幸せそうです。

そして、いかに自分が普段忙しさにかまけて、部下に感謝の気持ちを抱いたり、声かけをしていなかったかに気づくのです。

「部下への感謝のエピソード」の共有は、なかなか人気のあるセッションなのです。

その点、Aさんの話に出てくる上司は、反面教師といえるでしょう。

上司の仕事は、部下の心を前向きに動かし、意欲をもって仕事をしてもらうこと。特に新入社員や若手部下の場合には、いかに職場に必要とされているかを感じてもらうことが不可欠です。

経験豊富な上司からすれば、些細な仕事と思うことであっても、部下本人の創意工夫が感じられたなら、それを認めポジティブな声かけをしたいものです。

感謝は「働きがい」の原動力

上司は自分が動くのではなく、部下たちに動いてもらうことが本来業務です。

十数年来、「部下への感謝のエピソード」を聴き続けていますが、エピソードのバリエーションはさまざまで時代の変化もありますが、根底には普遍的な共通のマネジメントの真理があります。

それは、上司側が口うるさく指示していないにも関わらず、「こう動いてくれたら嬉しい」と思う行動を、部下側が主体的にとってくれているということです。

上司の仕事は部下の心を動かすことですから、上司の求める動きをしてくれた部下には感謝し、どんどん言葉にして伝えるべきです。

そうすると部下も働く喜びを実感し、そうした行動に拍車をかけていくことになるでしょう。すべての部下がそうした動きをしてくれるようになることは、上司の責務を果たすことにつながります。

つまり、部下への感謝は上司の義務といえます。部下一人ひとりの働きに感謝できないなら、厳しいですが、上司失格なのです。

Aさんが、ティッシュ配りの仕事で働きがいを発見できたのは、お客様から直接「ありがとう」の感謝をいただけたことで、自分にも「お役立ち」ができ、自己効力感を得られたからです。

こうした、顧客や社会への貢献を実感できる体験を、意識的に部下に提供することが大切です。

経験の浅い若手の部下に対しては、上司が日々の仕事を通した「小さな感謝や承認」を伝えながら、少しずつ働きがいを感じさせていくことです。「部下への感謝のエピソード」が示すように、部下への感謝に気づくことは上司自身をも幸せにし、働きがいに通じるものです。

感謝すること、されることの力の大きさを、あらためてとらえ直しましょう。感謝は「働きがい」の原動力。大切に育んでいきましょう。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。

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