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鈴木おさむさんが語るSMAP「謝罪放送」の“真実”…あらがえなかった「ソウギョウケ」の力

読売新聞 / 2024年7月3日 10時30分

「(旧ジャニーズ事務所を)告発しようなんて全く思っていません。ただ、僕の中で『SMAP×SMAP』という番組はちゃんと終わっていなかった。小説を書くことで、そこに『。』を付けたかったんです」=秋元和夫撮影

 「SMAP×SMAP」や「Qさま!!」など、放送作家として数多くのテレビ番組を手がけてきた鈴木おさむさん(52)が今春、その活動に終止符を打った。まだまだ活躍できる年齢での引退に驚かされたが、同じタイミングで出版した書籍「もう明日が待っている」(文芸春秋)には、さらに驚かされた。SMAPのデビューから解散までを小説という形で振り返った本には、SMAPファンのみならず多くの人に衝撃を与えた「あの夜の出来事」の“真実”が描かれていたからだ。鈴木さんは何を思い、なぜ筆を執ったのか。(編集委員・村田雅幸)

辞めないと書けない

 本書が、「放送作家を辞めると決めたから書けた」物語だったということは、事前に聞いていた。だから記者は、インタビューの冒頭近くで尋ねた。――なぜですか?

 「お分かりになりますよね。分かっていて聞いているんだと思いますけど」

 鈴木さんはすぐさま言葉を返し、こう続けた。

 「だって、ジャニーズのことを書けば、この人、大丈夫なのかなって誰もが思うはずでしょう。それが旧ジャニーズ事務所ですから」

 確かにそうなのだろう。芸能界に強い影響力を持つ事務所の意向に沿う限りは、特段問題はないのだろうが、本書は2016年1月18日、SMAPのメンバー5人が自分たちのテレビ番組「SMAP×SMAP」で行った、解散騒動を巡る謝罪の舞台裏を克明に記している。後に「公開処刑」などと批判された出来事の裏側を表に出すとなれば、様々なハレーションが起き、鈴木さんのみならず、テレビ局関係者にも迷惑がかかることが予想された。それ故、放送作家として活動をするうちに出版することはできないと判断したのだという。

悲しむファンに光を

 だが、自分の責任として、いつかは書いておきたい本だった。

 「謝罪放送については、僕自身もモヤモヤしていたし、SMAPファンの人たちもずっと悲しんでいた。作り手として世の中にあれを出してしまった以上、番組を見て傷ついた人を少しでも癒やせないかという思いがあったんです。ファンに一筋の光を、一滴の希望を持たせてあげたかった」

 それがドキュメントではなく、小説となったのには理由がある。

 「僕らに正義があるように、事務所側にも彼らの正義があったはず。でも僕はそれを知らないし、調べようとしても(相手は)答えてくれるはずもない。だからルポルタージュのように書くことは不可能でした。けれど、僕が見たことを小説として書くのであれば、いいのではないか。そう考えたんです」

 小説に登場する人物の名は、フルネームでは書かれない。しかし、読者にはそれが誰のことかすぐに分かるはずだ。リーダー、タクヤ、ゴロウチャン、ツヨシ、シンゴ。グループを途中で脱退したメンバーの名も、モリクンとして出てくる。また、小説とは言うものの、作中で描かれる出来事も「自分の目で追いかけていた、本当に起きたことです。そこで書いた僕の感情も含めて」。

あの夜、起きていたこと

 本書の最大の読みどころとなるのはやはり、1月18日夜の謝罪放送となる。鈴木さんの視点から、時間の経過とともに描かれるとあって、ドキュメント的な迫力も持つ。一部分を引用してみよう。

【午前1時30分】
3杯目のハイボールを頼んだ時だった。
携帯が揺れた。
「大変申し訳ないですが、今から局に来ること出来ますか?」
僕はクラブを出た。

【午前2時15分】
レインボーブリッジを渡っていると、見えてきたお台場のテレビ局。
「今夜の番組の一部を生放送にすることになりました」
彼らが所属する事務所から「こうしてほしい」という強い願いがあり、局側もそれを受け入れて、決まったのだという。

 以降、小説は【午前3時30分】【午前6時】【午前9時】【午後3時】【午後6時】【午後7時】【午後7時30分】【午後8時】と、時刻を明示しながら高い緊張感を保ったまま、その時々の出来事を記していく。その間に「僕」(鈴木さん)は、メンバー5人が生放送で解散騒動について謝罪することになったと知る。急きょ、彼らが語る謝罪の言葉を作ることになった「僕」。放送を前にメンバーそれぞれの思いを聞き、一度はその文言を完成させたが、放送開始まで1時間を切った段階で1枚の紙が届いて……。

【午後9時15分】

そこに書いてある言葉は、彼ら5人が所属する事務所を作った「ソウギョウケ」のトップの1人であり、この日本で、唯一無二のプロダクションを作り上げてきた女性によるものだった。
生放送の中で、絶対言うべき言葉が書いてあった。
メンバーの1人が社長に謝る機会を作ってくれたおかげで、「今、僕らはここに立ててます」というものだった。

 その後、現実の放送がどう進んだかは、多くの人が記憶しているに違いない。黒いカーテンの前に、黒いスーツ姿の5人が並び、1人ずつ謝罪の言葉を述べるのだが、苦しそうだったり、途中で言葉に詰まってしまったり。とんでもないことが今、テレビの中で起こっているのだと感じた人も少なくなかったはずだ。

 もちろんその場にいた鈴木さんも、あり得ないことが目の前で起きていると実感していた。その場面を小説で書く際に選んだ言葉が「ソウギョウケ」だった。

 「圧倒的な力、僕らが逆らうことができない何か、ということを考えた時、ぱっと降りてきた言葉でした」

 ソウギョウケ――。どこか「創造主=神」をも思い浮かばせる単語。ソウギョウケの前に、テレビはひれ伏してしまった。その状況を鈴木さんは今、こんなふうに振り返る。

 「すべてが魔法にかかっていたんです。本当は違うのに、従わなければならないと誰もが思い込んでいた」

もう明日が待っている

 謝罪放送から7か月ほどでSMAPは解散を発表し、その年の暮れに解散した。小説は最終章で、2024年1月までを描く。5人が現在、どんな活動をしているのか。どう立ち上がろうとしているのか。決して長い章ではないが、5人への視点は優しく、温かい。そして、こうつづる。

僕はあの時からだと思っている。
彼らのおかげで、彼らがあの時から変えたことにより、今まで手に入れることの出来なかった自由を手に入れられた人も 沢山 (たくさん) いるはずだ。

 「あの謝罪放送がゼロ地点だと思っているんです。こう言うとファンの皆さんには申し訳ないけれど、あれがあったから魔法が解け始めた。壊れ、奪われても、そこから芽が出て、新しいものが生まれてくることがある」

本書が持つ、もう一つの“顔”

 本書はSMAPの歴史をたどった本ではあるが、同時に男性アイドル論、平成のテレビ史としても読むことができる。

 SMAPがデビューした1991年は「男性アイドル冬の時代」だった。しかし彼らは既存のアイドル像を壊し、バラエティー番組にも積極的に出演。同時に、大人の男性でも夢中になれる曲も歌った。鈴木さんは本の中で、その人気を決定づけたのが、96年4月にスタートしたバラエティー番組「SMAP×SMAP」だったと記す。

 「初回視聴率が20%を超えました。あれが日本の芸能史、テレビ史を大きく変えたんです。アイドルが若い子の 流行 (はや)り物で終わるんじゃなく、国民的スターになる。彼らが成功したことで、後輩たちもテレビに不可欠な存在になった」

 小説は、同番組に関わったテレビマンたちの奮闘にも触れる。高倉健に出演してもらうために毎週手紙を書き続け、50通も送ったプロデューサー。マイケル・ジャクソン出演に向けての 莫大 (ばくだい)な出演料をめぐる駆け引き……。面白いものを作ろうと奔走する彼らの懸命な姿も、本書の大きな魅力となる。

 「青春の物語、仲間の物語でもあります。なので30代、40代の男性にもぜひ読んでほしい」

 様々な人間の努力が実を結んで番組は大きくなり、SMAPのメンバーそれぞれも活躍の場を広げていった。それは、喜ぶべきことだった。だが……。

 鈴木さんは「すごくつらいことだけれど」と口にしてから、こう語った。

 「後に事務所の力が巨大になりすぎて、メディアとの関係が通常ではあり得ないものとなってしまった。SMAPが変えたことが、最終的に自分たちを壊すものになってしまった」

放送作家を辞めたわけ

 鈴木さんがこの春、放送作家を辞めたことにも、実はSMAPへの思いがかかわっているという。

 「僕はSMAPのメンバーや、彼らを育てたマネジャーの飯島三智さんの背を必死に追いかけてきました。彼らに必要とされる存在でありたい、振り落とされたくないと、頑張っていたんです。でも、僕のことを必要だと一番思ってほしい人たちがいなくなり、自分の中でスイッチが入りきらなくなってしまった」

 では、次に何をやるのか? そうして始めたのが、若い起業家をサポートするベンチャーファンド「スタートアップファクトリー」だった。

 「僕は5、6年前から、事務所の下でシェアオフィスをやっているんですが、若い起業家たちが入れ替わり立ち替わり入っています。彼らは自分の身を削り、会社の成功を第一にしていて、昔のテレビマンみたいなんですよ」

 その姿がもう一度、鈴木さんのスイッチを押す。

 「彼らに必要とされたいと思ったんです。彼らと向き合っていると、昔みたいにワクワクする。ワクワクを感じながら生きるのが一番」

 誰かを支え、誰かに支えられながら懸命に駆け抜ける。鈴木さんはこれからも、そうして生きていくのだろう。

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