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[深層一直線]パリで花咲け選手の鍛錬……右松健太

読売新聞 / 2024年7月2日 14時53分

安川純撮影

沿道のあじさいに思う

 関東地方でもようやく梅雨入りした6月下旬の週末、日頃の運動不足解消のためにジョギングをした。住宅街の細い路地を抜け、大きな通りにさしかかると、歩道の植え込みに、大きな青色のあじさいが咲いていた。見れば、ずっと先まで紫色や薄桃色のあじさいが沿道を彩っている。走り慣れたコースだが、「こんなにあじさいが植えられていたのか」と、改めて気づかされた。いくつものあじさいとすれ違うと、こぶしくらいの小さな花から、 まりほどの大きさのものまで、ずいぶんと色も形も様々だ。

 霧雨が降ったりやんだりする梅雨空を背景に、雨粒をのせたあじさいは一段と色鮮やかだった。ゆっくりとしたペースでジョギングしていても、終盤は足がなかなか前に進まず、息も上がってくる。そのようなとき、沿道にこんもりと咲く、色とりどりのあじさいに、「もう一踏ん張り――」と、励まされているような気分になった。

 街路樹や通りの植え込みは、見慣れた町並みの風景に溶け込んでいて、普段意識することは少ない。しかし、この時期を待っていたかのように、一斉に咲くあじさいを見ると、ずっと前からその場所に根を張り、夏の日照りや冬の寒風を真っ向から受けながら、じっと土から養分を吸い上げ、ひたむきに鮮やかな花を咲かせる努力と準備を、人知れず続けていたのだろうと感じるものがあった。それは、あじさいに限らず、桜やツツジ、道ばたの野花に至るまで、きっとそうだ。

 今月、「花の都」パリで、五輪が開幕する。開会式はパリ中心部を流れるセーヌ川で行われ、エッフェル塔周辺にある公園やベルサイユ宮殿、コンコルド広場といった観光名所にも特設会場が設置され、競技が行われるという。新型コロナウイルスの影響で、3年前の東京五輪は無観客での開催となったが、32競技329種目に出場する世界中のアスリートたちは、会場を埋め尽くす多くの観客から大声援を受ける。

 パリの地で、ひのき舞台に立つアスリートたちの姿は、私たちにとって華々しく見えるだろう。表彰台常連の国民的スター選手、ようやく五輪の切符をつかみ取った苦労人、初出場の10代の若手――。その全てのアスリートは、これまで、私たちの想像を絶する厳しいトレーニングを積み重ね、多くの人の期待を背負いながら、思うような結果を残せるか、重圧の日々だったに違いない。パリ五輪で花開くために、暑い夏の日も、冬の寒い日も、人知れず、ひたむきに努力と準備を続けてきた姿に、この時期に咲いた、色も形も様々な沿道のあじさいが重なった。

 あじさいの大きな特徴の一つは、育った土壌によって青色になったり薄桃色になったりと、変化することらしい。この際、メダルの色は何色でもいい。これまでの地道な努力を養分にして、自分色の花を、パリの地で咲かせてほしい。そして、最後まで決して諦めないアスリートの姿に、わたしたちも心動かされ、「もう一踏ん張り――」と励ましを受けとるだろう。(BS日テレ「深層NEWS」キャスター)

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