1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

押し寄せるインバウンド、足りない人手…コロナ禍の影響が尾を引く屋形船や旅館・ホテル業の苦悶

読売新聞 / 2024年7月2日 23時45分

明かりの消えた屋形船の前で、出港する船に手を振る伊東陽子さん(6月10日、東京都品川区で)=若杉和希撮影

[都知事選2024 首都の課題]

 コロナ禍が収束し、東京都内各地には再びインバウンド(訪日外国人客)が押し寄せるようになり、かつてのにぎわいを取り戻している。しかし、労働の現場はコロナ禍の影響がいまだ尾を引き、深刻な人手不足に悩まされている。

 6月上旬の夕方、東京・品川の桟橋。外国人客で満員になった屋形船が岸壁を離れると、明かりの消えた船が2隻、ぽつんと取り残された。「もっと従業員がいれば全ての船を動かせるのに……」。屋形船運営会社「 船清 ふなせい」の 女将 おかみ、伊東陽子さん(71)はそうこぼした。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年2月、船清の屋形船でクラスター(感染集団)の発生が判明。「感染を広げた」とやり玉に挙げられ、休業に追い込まれた。給料をカットするほかなく、その後の1年間で従業員46人のうち17人が会社を去った。

 コロナ禍が収まり、インバウンドを中心に客足は回復したと感じる。だが、かつては一晩で最大280人ほどだった受け入れ客は、今は2割減の220人程度が限界。屋形船を運航する従業員を確保できないためで、コロナ禍前は8隻稼働させていた屋形船を5〜6隻しか動かせず、整備費を抑えるため今年に入って1隻を手放した。

 「予約を断らざるを得ない。本当に悔しい」と伊東さんは唇をかむ。屋形船東京都協同組合によると、人手不足は業界全体の問題といい、高橋呂美事務局長は「東京の伝統文化の灯が消えてしまう」と危機感を募らせる。

 帝国データバンクが1月、都内企業約2000社を対象に実施した調査で、正社員が「不足している」と回答した企業は前年同月比2・1ポイント増の55・3%に達した。3年連続で上昇しており、結果を比較できる07年以降で過去最高となった。同社情報統括部の舘岡茉里香さんは「人材の奪い合いは当面続く見通しで、苦境に立たされる中小企業が増える可能性は高い」とみる。

 業種別では、「旅館・ホテル」が最多の90%。屋形船と同様、インバウンド需要は活況だが、コロナ禍で取引先のリネン業者や清掃業者が次々に撤退・縮小に追い込まれた影響で、全ての部屋を稼働させられない事態に陥っているという。

 扶養されている人がパートで働く場合、収入が一定額に達すると社会保険料の負担が生じて手取り額が減る「年収の壁」も立ちはだかる。

 中央区のホテル「住庄ほてる」の角田隆社長(55)は、働き手を確保しようと賃上げに踏み切ったが、一部の従業員が、「時給が上がると『年収の壁』のせいで、手取り額が減ってしまう」として就業時間の短縮を申し出てきたという。

 結果的に人手不足に拍車がかかり、社長自らフロントや清掃の業務を担っている。角田社長は「業務を徹底的に効率化し、常にギリギリの状態で営業している。他の宿泊施設の経営者と会っても、人が足りないという話ばかりだ」とため息をつく。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、20年に928万人だった都内の生産年齢人口(15〜64歳)は30年をピークに減少に転じ、50年には20年比6%減の870万人と、労働者全体が減っていく見通しだ。

 中央大の阿部正浩教授(労働経済学)は「首都東京の人手不足は日本経済へ与えるダメージが大きく、中長期的に経済成長率を押し下げる恐れがある」と指摘。「都は企業の人材確保を支援するとともに、高齢者や女性も活躍できる職場作りなどを後押しする必要がある」と話す。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください