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奥能登4公立病院、看護師60人の離職や入院患者の転院で病床半減…専門家「設備や人員面で行政支援欠かせない」

読売新聞 / 2024年7月3日 5時0分

再開した「柳田温泉病院介護医療院」に避難先から約半年ぶりに戻り、慣れ親しんだ職員と会話を交わす大畑照枝さん(右)(1日、石川県能登町で)=須藤菜々子撮影

[能登地震6か月]<3>

 「半年たっても女房は戻って来られない」。石川県能登町の 椛田 がばだ昇さん(76)は、富山県内の療養病院に転院した妻の信子さん(75)を気遣う。2022年初めに太ももを骨折し、町内の柳田温泉病院に入院した。

 元日の能登半島地震で病院の建物が全壊し、1月19日、自衛隊ヘリで搬送された。自宅に近く、長期療養が可能なのは同病院に限られる。帰還を希望するものの再建まで3年はかかる見通しだ。糖尿病も抱え、治療と介護を受けられる施設を探している。

 施設の損壊や停電と断水で2月までに、入院患者や高齢者施設入所者ら約2000人が県内外の施設や病院に搬送された。今も多くの人が避難先にとどまっているとみられる。

 看護師も被災者となった。奥能登4市町(珠洲、輪島、能登、穴水)では、4公立病院の看護師計約60人が、家族と避難を迫られるなどして3月末までに離職した。

 人手不足と入院患者の減少で、4病院の病床は地震前の計538床から6月末には半分以下の240床に縮小。46か所の高齢者施設も稼働中なのは30施設だ。26か所の診療所のうち、輪島市と珠洲市の4か所が休止している。

 看護師確保のため、政府と県は、元の病院に籍を残したまま別の病院で働く「在籍出向」を4月から導入した。しかし、制度を利用して県内の病院に勤務しているのは3人のみだ。

 日本看護協会は、1か月〜2年の期間限定で奥能登の4病院などで働く看護師を募集し、13人が現場に入る。その1人で珠洲市総合病院に勤務する矢板沙緒里さん(32)は「少しでも力にと、被害の大きい珠洲を選んだ」と話す。ただ、矢板さんの勤務は来年3月まで。「患者が戻った時に人手を確保できるだろうか」。総看護師長の上野有子さん(61)に不安がよぎる。

 過去の災害でも地域医療へのダメージが復興の足かせになった。福島県双葉町は、11年の東京電力福島第一原発事故で病院や診療所がすべて閉鎖された。全町民約7000人が避難し、1日現在の居住人口は130人にとどまる。復興庁が昨年実施した住民意識調査で、帰還を判断するのに必要なこと(複数回答可)として最も多かったのは「医療・介護福祉施設の再開や新設」で47・2%だった。

 患者の受け入れに向け、柳田温泉病院に併設する高齢者療養施設・介護医療院が1日、能登町の公立 宇出津 うしつ総合病院の空き病床を間借りして再開した。公立病院に民間の高齢者施設が入るのは異例だ。期間は再建までの3年を見込む。

 地震で県内外の施設に移った介護医療院の入所者109人のうち、約20人が帰還を希望している。この日、福井県の高齢者施設から戻った大畑照枝さん(94)は「ふるさとの空気は違うわ」と顔をほころばせた。事務長の野村清一さん(52)は「入所者の声を受け、町と再開を探ってきた。職員の雇用も確保できる。復興の一歩にしたい」と語る。

 立命館大の丹波史紀教授(社会福祉学)は「医療介護の受け皿がないと、治療や介護が必要な高齢者とその家族も戻らず、過疎化が一層進む。機能維持のため、行政による設備や人員面での支援が欠かせない」と指摘する。

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