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劇場アニメ「ルックバック」…宝石のような青春物語、原作は「チェンソーマン」の藤本タツキ

読売新聞 / 2024年7月4日 14時0分

「ルックバック」から。京本(左)と藤野(右)

 上映時間58分の小さな宝石。藤本タツキによる同名の傑作漫画を劇場アニメ化した「ルックバック」(押山清高監督)が公開されている。主人公は、漫画を描く少女2人。なぜ、彼女たちは懸命に描くのか。その青春物語は、光を明滅させながら輝く。精緻なカッティングを施された貴石のように。(編集委員 恩田泰子)

 原作は、漫画「チェンソーマン」などで知られる藤本が2021年に発表した読み切り漫画。識者などによるランキング書籍「このマンガがすごい!2022」オトコ編の1位になった作品でもある。

 脚本・キャラクターデザインも手がけた押山監督は、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」「借りぐらしのアリエッティ」「風立ちぬ」に原画などで参加。「アニメオタクなら知らない人がいないバケモノアニメーター」というのは、本作についての藤本のコメントからの言葉だ。

 主人公は、自分の才能に絶対の自信を持つ藤野(声・河合優実)と引きこもりの京本(同・吉田美月喜)の2人。まるで正反対の彼女たちは、漫画、そしてそれを描くことへのひたむきな思いによって結びついていく。藤野は、キャラクターと物語を動かすことにたけている。バックの背景を描く京本には卓越した画力がある。2人はいいコンビになる。だが――。

 初めてこの物語に触れる人は、これ以上のあらすじは頭に入れないほうがいいだろう。

 アニメは、原作に忠実。藤本作品の描線の味わいをも尊重しながら、絵を動かし、色を加え、時間を操って、コマとコマの間にあるものを豊かに描き出していく。

 2人が生きる地方の町は、特別な場所ではない。いいことがあったからといって、空が晴れ渡ったり、バラ色になったりもしない。心が浮きたつような出来事の背景では雨が降る、雪が積もっている。それは、まるで世界の縮図だ。いかんともしがたい、変えられない現実があって、時に凶暴に襲いかかってくる。

 では、人は、人がつくり出す物語は、無力なのだろうか。「何の役にも立たない」のだろうか。漫画「ルックバック」は、そんな問いに向き合う作品であり、この劇場アニメも思い切り共振して力強い波を起こす。

 ぐいと腕を引っ張ってくれる誰かの力。つないだ手のぬくもり。2人で漫画を描く時間の幸福。その感触を、押山監督は、物語を描く人たちの力を集めて、確かなものとして映し出す。

 映画の序盤、窓に面した机に向かって4コマ漫画を描く小学校時代の藤野の背中がしばし映し出される。椅子は、背もたれのないスツール。漫画の表紙にも描かれている光景だが、ちょっと時間をかけて見せられると、よしなしごとが頭に浮かぶ。背中の支えなしでずっと机に向かい続けるのは容易ではないことに思いがめぐる。フィジカルな支え以外の存在が人には必要なことを私たちは知っている。そのことを、この映画は、自然に体感させ、終幕で決定づける。

 最初は不思議に思える動きをみせるものがある。それは、京本の家にあった1枚の4コマ用紙。藤野が漫画を描きつけた後のその紙の動きは、偶然にしてはちょっとできすぎている気もする。が、物語が進むにつれて思えてくる。そんなふうに動いたのは、偶然ではなく必然だったからではないかと。大切な出会いはそんなふうに奇跡じみたものではないかと。映画冒頭、 俯瞰 (ふかん)から藤野の家へ至るカメラのめくるめく動きとあいまって、そんなふうに思えてくる。

 ルックバック、ルックバック。タイトルにこめられた豊かな意味を何度もかみしめたくなる。アニメと原作の無限ループにはまってしまいそうだ。

 ◇「ルックバック」=上映時間:58分/アニメーション制作:スタジオドリアン/配給:エイベックス・ピクチャーズ=公開中

 ※写真=(C)藤本タツキ/集英社(C)2024「ルックバック」製作委員会

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