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九州豪雨で被災し廃業も覚悟、伝統のしょうゆが奇跡の復活…現場からもろみの酵母菌を抽出

読売新聞 / 2024年7月4日 15時37分

 2020年7月の九州豪雨で被災した熊本県人吉市鍛冶屋町の「釜田醸造所」が、浸水被害を受けたもろみから抽出した酵母を使って、しょうゆ造りを再開した。「マルカマ 醤油 しょうゆ」で知られる1931年創業の老舗。一時は廃業を覚悟したという3代目社長の釜田 あきらさん(57)は「多くの方々の支援で、伝統のしょうゆを守ることができた」と感謝する。(有馬友則)

 豪雨後に新調した深さ約2メートルのタンクが並ぶしょうゆ蔵。従業員が大きな棒でタンクの中のもろみをかき回すと、甘い香りが漂った。「 こうじ菌や酵母に気持ちよく活動してもらう大切な作業なんです」と釜田さんが教えてくれた。

 もろみは大豆、小麦、麹菌でつくる麹に塩水を加えたもので、これに酵母や乳酸菌が作用することで発酵・熟成。専用の機械で圧搾すると、生しょうゆができる。

 しょうゆ造りの過程では、専用メーカーから仕入れた酵母を添加する業者も多いが、釜田醸造所では蔵にすみついた酵母や乳酸菌が発酵・熟成に自然と作用することで、独特の味わいや香りを生み出していた。

 九州豪雨では、しょうゆ蔵は約1メートル浸水。巨大な冷蔵庫やタンクも転倒し、配達前だった商品も泥まみれになった。惨状を前に「もう造れない」と立ち尽くす釜田さんに支援を申し出たのが、熊本県産業技術センター(熊本市)だった。

 同センター食品加工技術室の佐藤崇雄さん(45)は「浸水被害を知り、何か力になりたかった。ただ、蔵にすむ菌が生き残るのは難しく、絶望的だと思った」と4年前を振り返る。

 もろみからなら、菌を救出できるかもしれない――。

 豪雨から約1週間後に蔵を訪れると、もろみが入っていた升にも泥水が流れ込み、表面は泥に覆われていた。それでも底の方には酵母が生き残っている可能性に懸け、慎重に泥を取り除いた。

 佐藤さんらは、回収したもろみから微少な菌を抽出。雑菌を取り除き、シャーレなどで培養して遺伝子を調べる検査を繰り返した。3年をかけて、高い塩分濃度でも活動でき、発酵する特徴を持ったしょうゆ造りに適した酵母約200種類と乳酸菌約100種類の特定に成功。佐藤さんは「目に見えない菌を選別するため、数万回の検査を繰り返した」と語る。

 昨春、特定した酵母のうち1種類を添加したもろみをタンクに仕込み、1年間の発酵・熟成を経て、今年4月に豪雨後初の生しょうゆが出来上がった。釜田さんは「豪雨前より、香りがフルーティーで、期待以上の出来だった」と喜ぶ。これらは販売はしておらず、原材料費としてクラウドファンディングで支援を寄せてくれた人たちへの返礼品として活用する予定という。

 現在、タンクでは酵母の種類を変えたもろみを仕込んでいる。将来的には、一般にも販売したいと考えている。「伝統の製法を後世に伝えながら、より高品質のしょうゆを造ることで支援してくれた方々に恩返ししたい」。釜田さんは力を込めた。

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