「信頼回復が最優先の課題、業界全体で法令順守や社員・代理店教育を徹底していく」…日本損害保険協会・城田宏明会長
読売新聞 / 2024年7月6日 10時0分
中古車販売大手ビッグモーターによる保険金の不正請求と企業向け保険における大手4社の事前調整問題。損害保険は、身の回りに起きた事故や損害をカバーする身近な存在にもかかわらず、信用を裏切る不祥事が相次いでいる。日本損害保険協会の新しい会長に就任した城田宏明氏(東京海上日動火災保険社長)に話を聞いた。(聞き手・橋爪新拓)
ガイドライン策定など四つの取り組み
――会長に就任した抱負を。
「お客様や社会から失った信頼を回復させるための取り組みを最優先の課題として進めていきたい。保険金の不正請求や調整行為で信頼を大きく損なった。業界全体で法令順守や社員、代理店教育の徹底、保険料の基盤を支える業務品質の確保が急務になっていると認識している。
社会の常識と業界慣行のずれを再認識し、業務品質を向上させ、健全な競争環境を実現したい。信頼回復の取り組みを進めるために、協会に業務抜本改革推進プロジェクトチームを設置した。不適切な事案を再発させないガイドライン(指針)を策定し、会員各社に展開させる。
金融庁の有識者会議による報告書をしっかりと確認し、検討を深めていく必要がある」
――具体的な取り組みは。
「四つの取り組みを進めたい。一つがガイドラインの策定。本業支援では、会員各社の理解にばらつきが生じないよう、便宜供与の類型や過度な本業協力の過度とはどんなことといった具体例を示したい。
二つ目は、代理店募集の業務品質の向上だ。業務品質を評価する基準をつくる。募集人の教育資格制度の改善、充実を図る。実効的、持続可能な仕組みになるよう、金融庁とも連携し、有識者の意見を踏まえて検討を重ねる。
三つ目は、理解の促進。保険本来の価値やリスクマネジメントに関する情報を十分に提供できていなかった。反省の声が上がっていることもあり、顧客企業の保険やリスク管理に対する情報を業界全体で提供するために支援する、業界共通のツールを作りたい。関連するセミナーも開く予定だ。
最後は、自動車修理工場による不正請求の対策強化だ。健全な保険制度の根幹を揺るがす不正な請求事案への対応は業界全体で不断に取り組んでいく必要がある。
ビッグモーターの問題は、不正請求の例や手口に関した勉強会を開くほか、損傷した車両の画像記録を示す修理工場向けのツールを作るとか、お客様向けの自動車修理時の留意点に関する情報発信などを行っていきたい」
まずわれわれが教育指導を管理
――金融庁の有識者会議では、第三者による評価機関や自主規制機関の設立を求める声もあった。
「代理店の業務品質を向上させていく、実効性のある形にするには何が必要か。まずはわれわれが教育指導を管理していく。協会が品質の評価基準をつくる。
現在、約15万の代理店がある。しっかりと浸透させて、全体の業務品質の向上を図る。実効性を高めるための仕組みや制度はどんなものかといった検討も同時並行で進めないといけない。
今回の有識者会議で示されているのが自主規制機関の案だ。選択肢の一つとしてあると思っているが、どういう時間軸で実現できるのか。どれぐらいの資源を使って、どれくらいの対応力を持たせるかといったことを見定めないといけない。
評価機関ができたとしても、15万店をみることはできない。一方で、第三者の評価をいれていくことは大切だと思っている。個社として取り組みながら、第三者、たとえば、金融庁のモニタリングをいれるといったことはあるかもしれない。協会として何かできるかという、自主規制機関のような取り組みもあるかもしれない。
二つの組み合わせもあるだろう。しっかりと議論していきたい。今はこれだというのがまだあるわけではない。方向性としては、全体の業務品質を高めるために基準を作って、実効性を高めていきたい」
大規模地震への備えを強化
――規模が大きい地震の発生が相次いでいる。
「大規模地震への備えを強化する方針だ。地震保険に重点を置きたい。迅速かつ適正な保険金の支払いを実現するために、現在は紙ベースで実施している損害状況の申告を、オンラインで行えるようにする。
大規模な地震が発生した時に、保険金を確実に届けられるように、業界で損害査定に関する課題を確認したい。2025年には、阪神・淡路大震災から30年を迎える。節目を機会として、災害の記憶や経験を後世に伝え、事前の備えの重要性を伝えるような企画を開催したいと考えている」
――保険料引き上げは家計の負担になる。
「保険料率は、火災保険の機能を安定的に提供し続けるために設定しているものだ。少しでも被害を小さくするという観点から、国や地方自治体と連携して、ハザードマップを普及させたい。協会独自のコンテンツを通じて防災、減災の意識を向上させる取り組みを行う。保険料の値上げが続き、お客様の負担は増している。事業費削減など、各社が努力することも重要だ」
◆城田宏明氏(しろた・ひろあき) 1992年成蹊大法卒、東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。営業企画部長などを経て2022年4月から執行役員。24年4月に東京海上日動火災保険社長。6月に日本損害保険協会会長に就任。神奈川県出身。
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