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60歳近くで人生の転機、土偶作家になった女性…「縄文人の精神構造まで探究」15年で500体製作

読売新聞 / 2024年7月12日 7時35分

アトリエで制作した土偶を披露する田野さん(千葉県大多喜町で)

 土偶作家の田野紀代子さん(74)は、約15年前から土偶を作り始め、今年4月上旬に500体目を完成させた。1万年もの間、平和だったという縄文時代。その時代に作られた土偶の神秘性に魅せられ、製作を続けてきた。「縄文人がどんな生活をしていたのか、空想する幸せに包まれています。夢の中にも土偶が出てくるんです」と真剣なまなざしで話す。

 高校時代から商業美術を学び、東京都内のデザイン事務所で経験を重ねた。その後は、フリーのグラフィックデザイナーとして、企業の社内機関誌やカレンダーなどのデザイン制作に携わってきた。「60歳近くまでは仕事一本でこれといった趣味はなかった」と振り返る。

 転機が訪れたのは2008年。千葉市の加曽利貝塚博物館で開かれた縄文土器の製作体験会に参加して、縄文考古学に興味を持った。土器の研究を通じて土偶に出会い、縄文人の精神文化に魅惑されて複製品の製作を始めた。

 1体目のモデルに選んだのは、東京国立博物館に所蔵されている山梨県出土の小さな土偶だ。「縄文人は土偶という素焼きの人形に精霊を入れて祈りをささげてきた。土偶作りに集中していると、縄文人の思いが伝わってくる気がする」と話す。

 土偶作りは全国の博物館を訪れ、資料を借りることから始まる。これまで全国で約2万点が出土しているが、田野さんの作品には、X線画像資料でパーツの接続方法や内面の様子を観察して製作したものもある。ただ作るだけでは飽き足らず、現在は千葉県内各地の粘土の成分も調べ、作品作りに生かしているという。

 遺跡の造形保存の第一人者で、千葉県市原市で発見された地質学上の一時代「チバニアン(千葉の時代)」期の地層採取を行った森山哲和さん(84)は、「田野さんは縄文人の精神構造まで探究しており、これだけの数の複製を造形した方はいない。一つ一つの作品に魂が入っていて、多くの考古学者が注目している」と高く評価する。

 100体目を完成させた13年には、写真集「土偶に遊ぶ」を出版。270体となった18年には、千葉市内にアトリエ「土偶ZANMAI」を開設した。

 その後も作品は増え続け、昨年末には460体を超えた。アトリエが手狭になったため、「縄文人が暮らした環境に近い自然がある」という千葉県大多喜町山中の古民家を購入し、新たな拠点とした。6月初旬には製作500体を祝い、交流のある考古学の研究者たちを招いて、記念イベントも行った。

 海外での土偶展の開催を目標に据える。「土偶は世界に誇る日本の大切な文化遺産。こんなに素晴らしいものがあるということを世界の人々に知ってほしい」と力を込める。大多喜町の小中学生を対象に、土偶作りの体験教室も開きたいという。

 500体目の作品は、1体目と同じ山梨県出土の土偶を製作した。「より精巧になったと思います。今後は作品点数にこだわらず、過去の作品を調べ直して、さらに縄文人の精神文化に近づきたい」(戸田光法)

◆たの・きよこ=1950年、千葉市生まれ。土偶作家。アトリエ「土偶ZANMAI」の見学は金、土、日曜日。午前10時〜午後4時。見学は無料だが、Eメール(0521himeko@gmail.com)で事前予約が必要。

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