カール・ルイスに次ぐ「金」8個、1900年パリ五輪でデビューの「カエル人間」
読売新聞 / 2024年7月26日 6時44分
[パリ五輪こぼれ話]…1900年のパリオリンピック<4>
小中学校の体力テストでおなじみの「立ち幅跳び」は、かつてオリンピック種目だった。陸上競技の1種目として初めて採用されたのが、1900年のパリ大会。アメリカのレイ・ユーリー(1873~1937)が初代オリンピック王者となった。
ユーリーの強さは圧巻だった。立ち幅跳びは3メートル30で制し、さらに立ち高跳びは1メートル65、立ち三段跳びは10メートル58で制覇。助走なしの跳躍種目で3冠に輝いた。3種目とも2位にとどまったのが、同じアメリカのアービング・バクスター。助走ありの「走り高跳び」と「棒高跳び」で優勝したバクスターをしのぐ活躍を見せ、「カエル人間」との愛称がついた。
幼少期は不遇だった。アメリカ・オリンピック・パラリンピック博物館の公式サイトで紹介されているプロフィルなどによると、5歳で両親を失い、7歳でポリオ(小児まひ)にかかってからは車いす生活を余儀なくされた。しかし地道なリハビリの末に歩けるまでになり、跳躍動作もまじえた運動を重ねて、体の強さも身につけた。陸上と出会ったのは、地元・インディアナ州のパデュー大に進学してから。ジャンパーとしての才能を開花させ、陸上チームではキャプテンも務めた。
フランス人を驚かせたパリオリンピック以降も、無敵を誇った。4年後の1904年、母国アメリカで行われたセントルイスオリンピックでも「立ち幅跳び」「立ち高跳び」「立ち三段跳び」を制し、2大会連続の3冠。1908年のロンドンオリンピックでは、立ち三段跳びが実施種目から除外されたが、立ち幅跳びと立ち高跳びでは3連覇を果たした。1912年ストックホルム大会の出場はならなかったものの、オリンピックチャンピオンの座につくこと計8度。アメリカの陸上選手としては、1980~1990年代に短距離種目や走り幅跳びなどで9個の金メダルを獲得したカール・ルイスに次ぐ記録だ。
1912年のストックホルム大会を最後に、助走なしの跳躍種目はオリンピックから姿を消したこともあり、ユーリーの全米での知名度は高くない。それでも、生まれ育ったインディアナ州ラファイエット周辺では、その功績を後世に伝えようとする動きが続く。地域のキリスト教会でつくる慈善活動団体「ラファイエット・アーバン・ミニストリー(LUM)」は2011年、その名を冠した若者向け支援施設「レイ・ユーリー・ユース・プログラム・センター」を開設。インディアナ州を走る国道231号のうち、ユーリーの母校、パデュー大沿いの区間約5キロは2014年、州議会の決議を経て、「レイ・ユーリー記念国道」と名付けられた。陸上やバスケットボールなど学生スポーツが盛んなパデュー大も、先端技術で選手をサポートする「レイ・ユーリー・スポーツ工学センター」を2019年に新設している。
LUMで若年層支援などを担当するパブロ・マラベンダさんは「オリンピック種目から消えてしまい、レイのことは忘れられてしまったが、こんな素晴らしい選手がいたということを地域の人たちには知っておいてほしい。彼は地元のヒーローなんです」と話す。124年前、花の都から飛躍した不屈のジャンパーの物語は、郷土で連綿と語り継がれている。(デジタル編集部 深井千弘)
パリで初めてオリンピックが行われたのは、1900年。同じ年に開かれたパリ万博に付随した運動・スポーツ国際大会として開催された。大会期間は5か月余りに及び、選手は国・地域の代表ではなく個人の資格で参加するなど、大会運営方式は現在と大きく異なっていた。1924年にも行われ、フランスの首都では3度目となる今夏のオリンピックを機に、近代オリンピック草創期に開かれた大会のエピソードを紹介する。
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