印刷事業「商業・産業分野に力、アナログ印刷をデジタルのインクジェットに置き換えていく」…セイコーエプソン・小川恭範社長
読売新聞 / 2024年7月12日 15時4分
ペーパーレス化の流れを受けて、印刷機メーカーが新たな収益源を探している。セイコーエプソンは、腕時計の製造で得た精密加工技術をプリンターの生産に生かしている。環境に配慮した取り組みを含め、小川恭範社長に取り組みを聞いた。(聞き手・村瀬駿太郎)
紙への印刷、市場は年々小さく
――商業・産業分野の印刷事業に力を入れている。
「売り上げの7割を占める(印刷関連の)プリンティング領域が多岐にわたっており、二つに分けている。オフィス・ホームと商業・産業だ。売り上げの半分くらいはオフィス・ホーム。(家庭用の)ホームが非常に大きい。紙への印刷ということで、市場自体は小さくなってきている。年に2%、3%くらいは確実に減っている。ホーム用では、インクカートリッジから大容量のインクタンクモデルに変えてきている。
オフィスは、レーザープリンターがほとんど。そこをインクジェットに替えていくのが大きな方向性だ。オフィスではわれわれのマーケットシェアは小さいので、成長領域に位置づけている。シェアが小さいので、大きなマーケットがあると。熱を使わない、消費電力が少ない、交換部品が少ない。環境に貢献できる商品だということで増やしている。
紙の印刷が少なくなっている中でも、わが社の売り上げは着実に伸びている。
もう一つが商業・産業の分野で、非常に力を入れている。ポスターとかサイネージに使う大型のプリンターだ。キャド(コンピューター上の製図)や図面の印刷、後は
商業・産業分野は確実に伸びている。アナログの印刷をデジタルのインクジェットに置き換えていく」
――ほかの取り組みは。
「プロジェクター(映写機)の市場が大きく拡大することは期待していない。大型の液晶パネルも価格がかなり安くなっている。ただ、そうは言っても、プロジェクターのほうが大きな画面で映せる、持ち運びもしやすい。
(壁面に映像を映し出す)プロジェクションマッピングのようなところは伸びている。一番大きな市場である、会議室や教室向けはほぼ横ばいだ。
産業用ロボット関連のマニュファクチャリングソリューションズ事業は非常に厳しい。メインの市場が中国だということもある。景気がまだよくならない。中国政府から地場のメーカーを使うように推奨されている状況もある。非常に安い価格で性能は良くないが出てきている。(生産技術の)自動化の流れは中国だけではない。インドや東南アジアに広げていく。
腕時計はコロナで一時減ったが、需要が戻ってきた。マイクロデバイスと呼ぶ水晶と半導体は、コロナの頃に、部材不足があり、高値で販売でき非常に好調だったが、今は市場に在庫もたまっており、雲行きが怪しくなってきている」
中国景気、2024年度いっぱいは厳しい
――中国景気の底打ちはいつ頃を見込んでいるか。
「ちょっと読めないところもあるが、少なくとも2024年度いっぱいは厳しいだろうなと想定して計画を立てている。運良く戻ってくれれば非常にありがたいが、難しいかなと思っている。人口も多いし、あっさりあきらめることはない。プリントヘッドの外販は中国が主力だ。
プリントヘッドを駆動させる回路基板のメーカーだったり、インクをプリントヘッドに持ってくるシステムだったり、分業が中国で進んでいる。これまでは国内向けが中心だったが、海外もいとわずどんどん出ている」
――複合機メーカーで再編の動きがある。
「目に見えて動いているのは、トナーを使うレーザープリンターメーカー同士の協業や買収、経営統合の動き。われわれのインクジェットプリンターとは技術が違うので静観している。
そうは言っても、インクジェットとレーザーとで何が協業できるか、考えにくいが部分的にはあるかと思っている。たとえば、ソフトウェアとか、リサイクル、リユースのスキームだったり。何らかの可能性は否定するものではない。レーザー同士の離合集散といったものについては、今すぐに対応するものではないと思う」
――株主への対応は。
「全体の配当性向を40%にしようということを公表しており、しっかり取り組んでいる。利益や売り上げが低い事業をこのまま続ける意味は何かという質問を受けることは当然ある。昔より増えたと思う。利益率に対する意識は確実に強まっている。われわれは長期の売り上げ目標の公表をやめた。売り上げよりも利益をしっかり出していこうという方針に変えている。それぞれの事業のシナジーをどう出していくかというシナリオを作ることも重要だ。株主との対話も頻繁に行い、考え方を説明している」
――環境に配慮した取り組みは。
「長野県に本社がある。自然に囲まれた環境で事業を行ってきた。わが社で『省・小・精』と言っている。無駄を省いて省エネを目指す。モノが小さければ材料も減らせる。そして精密にする。精密にすればさらに、小型化、省電力、省エネルギーができる。これ自体が環境貢献になる。長野県にあり、自然に頻繁に接している我々だからこそ、環境貢献がアピールできる。そうした商品が提供できると思っている」
◆小川恭範氏(おがわ・やすのり) 1988年東北大院修了、入社。技術畑を歩む。ファクスの読み取り装置となるイメージセンサーの設計や生産技術を担当したほか、プロジェクターの設計に関わり、エプソンで初めてのビジネスプロジェクターの商品化を実現。研究開発や生産技術の開発を担う技術開発本部長や取締役常務執行役員を経て、2020年4月から社長。愛知県出身。
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