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変わる漁獲地図、ブリの旬は夏?羅臼の海はサケからブリに…北海道の水揚げ17年で50倍

読売新聞 / 2024年7月21日 11時30分

[魚食べてますか 揺らぐ食文化1]

 日本の魚食文化が危機に直面している。受け継ぐためには何が必要か。現状や様々な取り組みを紹介する。

「この時期に…」驚き

 サケの水揚げで知られる北海道東部の羅臼漁港。10年ほど前からブリの漁獲が増加し、羅臼漁協がブランド化した。9月からとれ始め、10、11月が中心だが、近年は6月下旬からと時期も早まっている。

 7月4日朝、港をたずねると定置網の漁船のクレーンでつった網でブリが次々に水揚げされた。約700匹を水揚げした漁師の鈴木大介さん(42)は「この時期にこれだけとれるようになるとは」と驚く。

 ブリは長崎県など温暖な地域での漁獲が多かったが、北海道ではこの10年で急増し、2020年には全国トップに。ブリといえば、富山の寒ブリが知られるが、羅臼漁協の竹内勉・流通部長(58)は「以前は定置網にたまにひっかかる程度だった。冬場のブリは富山の寒ブリにも負けない。今の時期もさっぱりとしておいしい」と期待を寄せる。

 低水温を好むサケ類の水揚げが減少し、暖水性のブリが北上して水揚げが増加するなど日本の漁獲マップが変動している。気候変動による海水温の上昇の影響とみられ、魚食のあり方も変わった。

サケやサンマは不漁

 羅臼漁港では、定置網の漁船が入れ代わり立ち代わり水揚げを行っていた。近年、急増しているのが暖水性のブリ。重さごとに振り分けて運ばれ、市場で早速セリにかけられた。同港全体では約43トンの豊漁だった。

 元々5~8月は、「トキシラズ」と呼ばれる脂の乗りが良いシロザケがとれていたが、近年は低調だ。羅臼漁協流通部長の竹内勉さん(58)は、「ブリは特に夏場が増え、通年でとれるようになってきた。ブリをメインに切り替える漁師もいるほどだ」と話す。

 2011年頃からとれはじめ、当初は年間500トンほどだったが、23年は1400トンにまで急増した。北海道全体でも漁獲量は伸びている。農林水産省の統計によると、ブリ類は03年には300トン程度だったが、20年には全国トップの1万5300トンに上った。

イセエビは茨城県に

 イセエビの産地は三重県や和歌山県、静岡県などが知られるが、近年、茨城県で漁獲量が急増している。12年は約6トンで全国17位だったが、22年は67トンで7位に。県は昨年、県産イセエビのうち、600グラム以上で見栄えが整ったものを、「常陸乃国いせ海老」としてブランド化し、販路を県内外に広げる。

 水戸市内などで料理店を経営する「山口楼」では、姿造りや姿焼きなどの料理を各店で提供する。社長の山口晃平さん(51)は「『茨城でもイセエビがとれるのか』とお客さんから驚かれる。とりすぎないよう保護しながら活用したい」と話す。

 ブリやイセエビなど比較的暖かい地域でとれる魚が気候変動による海水温の上昇などを背景に北上している。水産庁などによると、日本近海では22年までの100年間で海水温が1・24度上昇し、世界全体の平均を上回っている。暖水性の魚介類は安定・増加傾向にあるが、不漁が続いている魚種のほうが多い。

生産量はピーク時の3割

 日本の漁業や養殖による生産量は1984年の1282万トンをピークに減少し、2022年は392万トンとピーク時の3割まで減った。主要魚種で大きく減少しているのがサケやサンマ、スルメイカだ。1993年に27・7万トンとれたサンマが22年には9割以上減の1・8万トン、スルメイカは9割減、サケ類は6割減と大きく落ち込む。アジも7割減で値段が上がっている。

 北海道大学教授(海洋環境学)の笠井 亮秀 あきひでさんは、「魚種によって要因は異なると考えられ、一概に言うのは難しい」とした上で、気候変動による海水温の上昇や、暖流である黒潮の北上などを、漁獲量や生息域の変化の原因に挙げる。「特に、資源量の変動が大きく、他の様々な魚の餌となるマイワシに注目している」。1990年代に大きく減少した。2010年以降は増加傾向だが、マイワシが増えるとスルメイカなどが減る現象も知られる。

料理人に危機感「魚が手に入らない!」

 「魚が手に入らない!」。5月下旬、ミシュラン三つ星の名店など和食やフランス料理の料理人らで作る団体「シェフス・フォー・ザ・ブルー」のメンバーが水産庁を訪れた。森健長官に水産資源の調査や回復の取り組みを急ぐよう求める提言書を手渡し、「日本ほど多種多様な魚料理を極めている国は珍しい。だが、国民への安定的な供給が危うくなっている」と訴えた。

 気候変動に加え、不漁の原因とされるのは、漁獲量を規制する資源管理が不十分なことだ。水産庁は2020年に改正漁業法を施行し、水産資源の管理に本腰を入れ始めたばかり。同団体はサケ類など主要魚種だけでなく、明石のマダコや和歌山のタチウオなど地域の食文化にとって重要な沿岸魚種も減少が続いているとして管理強化を求める。

かつての水産大国は…現状を知って

 東京都内の日本料理店「てのしま」店主の林亮平さんは「色々な魚種がたった20年、30年で激減した」と強調し、例にあげるのがイカナゴ。瀬戸内海の春の味覚「くぎ煮」に使われるイカナゴの稚魚・シンコは今年、記録的な不漁となった。林さんは「次の世代に豊かな食文化を残すためにも海の現状を多くの方に知ってほしい」と訴える。

 魚は健康的なたんぱく源として国際的に需要が拡大し、世界の生産量は増加している。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の漁業による漁獲量は資源管理に取り組むなどして1990年頃から横ばいで、養殖業の収穫量は増加し、全体では増加傾向が続く。

 一方、かつて「水産大国」と言われた日本は、供給量や扱う魚種が減少するなかで、食卓や地域での魚の存在感が薄まっている。

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