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古墳の権威は「全長より高さこそが重要」……全国の遺跡を訪ね歩いた松木武彦・国立歴史民俗博物館教授が新著

読売新聞 / 2024年7月18日 9時55分

 文字を残さなかった人々の心に意識を向けて考古学を研究してきた松木武彦・国立歴史民俗博物館教授(62)が、新著『古墳』(角川ソフィア文庫)を出した。多様な造形に美を見いだし、古墳の規模を高さで捉えるなど、新しい視点を打ち出した。

原野に葺き石圧倒的

 古墳の美しさについて尋ねると、言葉があふれ出た。

 「直線と曲線を合体させて独特な見え方を生んでいる。 き石は表面を白く反射させて光と影を演出する。当時、原野の中にあれだけ大きな構造物が現れると、モニュメントとして存在感は圧倒的だったでしょう」

 墳丘の美しさなら、葺き石もまぶしく復元された五色塚古墳(神戸市)や、後円部と前方部が豪壮な一体感をかもす横瀬古墳(鹿児島県大崎町)を挙げる。石室は、何と言っても伊勢塚古墳(群馬県藤岡市)。細長い石を丁寧に積み、間に丸石を挟む「アートと化した横穴式石室」だ。

 これらを含む多様な古墳を、本書は多数のカラー写真で紹介する。多くが自身の撮影だ。「古墳で飯を食ってきたから、古墳をどこからどう見れば特徴が捉えられるか、経験でわかる」

認知考古学

 人間の感覚や心の動きに着目して遺跡や出土品を研究する「認知考古学」に、日本でいち早く取り組んできた。

 長く岡山大で教え、未盗掘の石室発見で注目された (しょう) () (ざこ)古墳(岡山県倉敷市)の発掘を手掛けた。2014年に千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館に移り、東国の古墳も歩いた。旧石器時代から古墳時代までを認知考古学の目で描いた『列島創世記』でサントリー学芸賞を受け、『美の考古学』『縄文とケルト』など独創的な著書を出してきた。

 研究の中で、「なぜ日本列島にあれほど大きく、それぞれ個性を持つ多様な古墳が築かれたか、これまでの考古学は考察が及んでいない」と、歯がゆさを感じてきた。

天近くに葬る

 古墳はヤマト王権の秩序の中で、大きさや形で視覚的に階層性を表したと考えるのが一般的で、その際、大きさの尺度は「全長」だった。だが本書では、墳丘の「高さ」こそ重要だと主張した。空からでなく、当時の人々と同じ目の高さで古墳を仰ぎ見続け、墳丘を歩いて高さを感じた結論だ。

 「古墳は、地域それぞれの氏族が、首長を神格化するためのものだった。死んで神になるには、土を盛って少しでも高い所に葬り、天に近付ける必要があった」。埋葬施設がある後円部・後方部から前方部に向けて、一度斜面を下って再び先端に向けて上っていく造形を「天空のスロープ」と呼ぶ。

 古墳の構造は、6世紀に大きく変わる。埋葬施設は、頂上でなく低い部分に、横穴式石室が設けられるようになる。「大王家の権威が確立し、国際環境の中で、朝鮮半島など東アジアのスタンダードを意識して、墳丘の底に遺体を葬る墓を造るようになった」とみる。古墳は多様化が、いっそう進んでいく。

 多様さを、本書は地上から撮った写真で伝える。「当時の人の視線で見ることが大事。空中写真で構造はわかるが、当時の人々の心には近付けない。前方後円墳を真上から見下ろした人はいなかったんだから」(清岡央)

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