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五輪標的に不安あおる偽動画、IOCの信用失墜が目的か

読売新聞 / 2024年7月17日 5時0分

偽動画「五輪は堕落した」のタイトル画面。トム・クルーズさんが話したとされる音声は生成AIで制作された=SNSから

[生成AI考]第3部 秩序なき進化<5>最終回

 パリ五輪を翌年に控えた昨年初め頃、「五輪は堕落した」と題した9分ほどの動画がSNSに投稿された。「語り手」とされたのは、米俳優トム・クルーズさん。「国際オリンピック委員会(IOC)は何千年も続いた五輪をゆっくりと破壊している」と主張し、トーマス・バッハ会長らが「貢ぎ物集め」や「汚職の 隠蔽 いんぺい」をしていると批判した。

 米動画配信大手ネットフリックスのロゴが登場するが、同社製作のドキュメンタリーを装った偽動画だった。トム・クルーズさんの声はAI(人工知能)で生成されていた。

 IOCは同11月、動画は「組織的な偽情報キャンペーン」だとする声明を発表した。今年6月には、米CNNが西側当局者らの話として、ロシアの関与があったと報じた。

 ウクライナ侵略を続けるロシアと同盟国ベラルーシはパリ五輪の団体競技出場が禁じられた。個人競技の出場も「個人資格の中立選手」に限られ、両国は強く反発した。ロシアは五輪後に国際総合大会を開くと宣言していた。

 マイクロソフトは米IT企業の立場から6月に公表した報告書で、ロシアの目的はIOCの信用失墜だと分析した。「パリ五輪で暴力事件が起きる」といった恐怖を抱かせ、市民観戦の妨害を狙っているとの見方を示す。

 同社が「ストーム1679、1099」と呼ぶ二つのグループが昨年6月から五輪を標的とした活動を活発化させているという。フランスの放送局を装って「テロへの恐れからある試合でチケットの24%が払い戻された」などと偽のニュース動画を流し、不安をあおっていると指摘した。

 6月24日にネット上で配信された記事で、ネズミが五輪の開会式会場となるセーヌ川で泳いだりサーフィンをしたりするアニメ風の画像が紹介された。パリはネズミに悩まされた歴史があり、衛生状態への不安を皮肉ったとみられる。

 記事は美容関連のAIを開発する台湾系企業のフランス向けサイトに掲載された。同社は「記事は単純にアプリの宣伝用」と説明するが、サイトでは「あなたのユーモアを示そう」と生成AIの利用を促しており、結果的に中傷や偽情報の拡散に加担する恐れがある。

 仏スポーツ団体と連携し、五輪の出場選手らに対するSNS上での中傷を防ごうとする動きも出始めた。南仏ニースを拠点とする起業家シャルル・コーエン氏(28)は、有害な投稿に対応するアプリ「ボディーガード」を開発した。「生成AI技術の進歩によって有害な投稿は増殖する」と警鐘を鳴らす。

 アプリはSNS上の投稿の有害度を測定し、スマホなどで表示できないようにする。警戒するのは、人間を介さず自動的に文章を作るSNSアカウントからもっともらしい有害な情報が大量に投稿され、誤りだと判断しにくいケースだ。コーエン氏は「ネット上のフィルターを避ける方法を熟知した上で悪意を持って投稿する人がいる。常に対応できるように技術を刷新する必要がある」と語る。

 IOCは4月に発表したAI活用指針「AIアジェンダ」で、五輪運営の効率化などとともに、選手に対するネット上のハラスメント対策を柱に掲げた。バッハ氏は「五輪の価値を守りながらも、変化を受け入れてAIの未来への道筋を定めたい」と強調した。

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