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「ふざけるな」「警察呼ぶぞ」カスハラ被害者、今もフラッシュバック…心の被害深刻化

読売新聞 / 2024年7月17日 16時17分

 顧客や取引先から理不尽な要求を突きつけられるカスタマーハラスメント(カスハラ)の被害が深刻化している。暴言や威嚇などで精神的に追い込まれ、うつ病などを発症し労災認定される被害者も出ている。厚生労働省は関係法令を改正し、企業に対して、カスハラ対策の実施を義務化する方針だ。(中村俊平)

労災昨年度52人

突然の激高

 作業療法士として福岡県内の病院に勤務する男性(37)は、今年初めに受けたカスハラ被害を今も忘れられないでいる。

 入院患者のリハビリを担当し、足が不自由な高齢の男性患者を車いすに乗せようとした際、男性が突然、「何をする!」と激高し、胸を殴りつけてきた。暴力を振るわれたことに大きな恐怖を感じ、「今でもほかの患者への対応中に、フラッシュバックすることがある」と話す。

 「ふざけるな」「警察を呼ぶぞ」――。患者に暴言を吐かれるのも日常茶飯事だが、職場ではカスハラの対応方法が具体的に定められておらず、我慢せざるを得ない。女性職員が体を触られるなどのセクハラを受けることも多いという。男性は「『患者様』なら何をしてもいいわけではない。このままでは現場が立ち行かなくなる」と訴える。

危機感

 流通やサービス業の労働組合が加盟する「UAゼンセン」が今年1~3月に実施したアンケート調査では、従業員3万3133人のうちの47%(1万5508人)が、過去2年にカスハラを経験したと回答した。「暴言」が40%で最も多く、「威嚇・脅迫」(15%)、「 執拗 しつようなクレーム」(14%)が続いた。

 業種ごとの分析では、スーパーなどでは上司の謝罪の要求、医療・介護の現場ではセクハラや大声での威圧的な言動が多くみられた。

 カスハラによる健康被害は深刻だ。厚労省が6月、カスハラが原因でうつ病などの精神疾患を発症し、労災認定されたケースを初めて集計したところ、昨年度は52人(うち女性が45人)に上った。このうち1人は自殺を試みるほど追い込まれており、同省幹部は「もはや単なるクレームとして済ますことはできない」と危機感を募らせる。

法改正へ

 政府は、6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の中で、初めてカスハラ対策の必要性を盛り込んだ。

 厚労省は現在、専門家を含む検討会で、カスハラ対策の法制化に向けた議論を進めている。今夏にも報告書がまとまる見通しで、その内容などを踏まえ、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)を改正する方針だ。

 パワハラ対策と同じように、企業に対して従業員向けの相談窓口を設置するよう義務づけるほか、顧客対応に関する研修の実施を求める方針で、来年の通常国会で改正法案提出を目指す。

 一方、厚労省の検討会では消費者団体から「正当な申し出やクレームまでカスハラ扱いされかねない」との懸念も示されている。

 カスハラに詳しい東洋大の桐生正幸教授(犯罪心理学)は、法制化について「被害の抑止につながる」と評価した上で、「正当なクレームかカスハラか迷いが生じないように、国はカスハラの具体例や判断基準を業種ごとにわかりやすく示すべきだ。消費者がカスハラに及ばないための教育にも力を入れてほしい」と話している。

◆カスタマーハラスメント=従業員より優位な立場にある顧客らによる理不尽な要求や不当なクレーム。小売りやサービス業、医療・介護などの現場で多いとされる。厚生労働省は代表的な例として土下座の強要や性的な言動、脅迫や中傷などを挙げている。

コンビニの名札 イニシャルOK…つきまとい防止

 企業の間では、顧客のクレームはサービスの改善につながるとの考えが根強くあった。しかし、カスハラへの対応が後手に回れば、従業員の離職や採用難に拍車がかかるとの認識が広がり、積極的な対応に乗り出す動きが広がっている。

 ローソンやファミリーマートでは今年5月以降、店員の名札でイニシャル表記などを認める運用を始めた。SNS上などで氏名をさらされて中傷やつきまといの被害を防ぐためだ。JR東日本も4月、「カスハラが行われた場合は対応しない」と表明した。

 自治体でも対応が進んでいる。東京都は、全国初となるカスハラ防止条例の制定に向け、5月に、あらゆる職場でのカスハラを禁じる内容の基本方針を取りまとめた。今秋の都議会での成立を目指している。北海道や三重県などでも条例化の動きがある。

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