1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

AIが誤変換する鹿児島弁、速記が頼り…鹿児島県議会事務局「AIにはまだ難しい」

読売新聞 / 2024年7月17日 16時4分

速記者(手前)を議場に置いている鹿児島県議会の本会議(6月4日)=小園雅寛撮影

 かつて、国会や地方議会で欠かせない技術だった速記を廃止する動きが広がる中、鹿児島県議会は速記を維持し続け、県内では後継者の育成に取り組む。音声をAI(人工知能)で文字にする「音声認識システム」の導入を始める自治体も出ているが、同県議会は、AIがくみ取れない鹿児島弁の独自性を重視している。(小園雅寛)

「意味が通じない」

 同県議会では、速記を昭和30年代に採用したとされる。続ける理由として県議会事務局は、文字を起こす手間がかかる録音と比べて即時性がある点と、方言独特のイントネーションを挙げる。

 「あめ(雨、飴)」、「じどう(児童、自動)」、「はし(橋、端)」――。鹿児島弁の抑揚は、標準語と異なるものが多い。

 さらに、相手を「わい」、自身が相手方に出向くことを「来る」と言うなど、逆の意味に受け取られかねない使い方も。寂しい、退屈だという意味の「とぜんなか」、髪の毛が伸び放題だったり、植物が生い茂ったりする様子を指す「やんかぶる」など独特な表現も多い。「行っきゃった(行った)」のように、促音を多用するのも特徴だ。

 県議会でも、インターネット中継では、音声認識システムを採用。質問や答弁を即時に字幕に変換するが、たびたび誤変換し、「意味が通じない」「よく分からない」と県議会事務局に指摘が寄せられるという。

 発言する議員や県職員が緊張すると、早口になったり、滑舌が悪くなったりするため、より聞き取りづらくなる。県議会事務局の担当者は「聞いていると文脈で理解できるが、(適切な変換は)AIにはまだ難しいのではないか」と話した。

技術の伝承が課題

 鹿児島県議会が速記を委託する会社「鹿児島県速記士会事業部」(鹿児島市)によると、速記者は、鹿児島弁の抑揚を把握して前後の文脈から真意をくみ取る。議事録の作成には適切に言葉を補うことも重要で、県議会事務局担当者も「正確な議事録を残すため、速記を続ける」と強調する。

 速記者は全国的に減少しており、速記技術の伝承や後継者の確保も課題となっている。同社も多い時で約30人が働いていたが、ここ数年ではパートを含めて15人前後が勤務する。同社取締役で速記歴30年以上の速記者、岡元まり子さん(75)は後継者育成や速記に親しんでもらうための勉強会を毎月、開いているという。

 同社所属で、速記歴25年の速記者岡田真実さん(43)は「鹿児島など方言やイントネーションが強い地域では速記が必要。速記は昔から受け継がれる職人技とも言える技術で、文化としても残したい」と力を込めた。

始まるAI利用

 福岡県や熊本県、宮崎県のように本会議の議事録を録音で対応する議会が多い中、都道府県議会では、音声認識システムの利用も始まっている。システムの開発販売会社「アドバンスト・メディア」(東京)によると、音声認識は声と言語の情報を組み合わせ、AIが文字に変換する。アド社のシステムでは、声の特徴や周波数を基に音声を判別するなどして単語を割り出し、過去の学習データから予測して文章に変換するという。同様のシステムは東京都や北海道、宮城県など各議会で導入されている。アド社担当者は、抑揚が精度に与える影響には否定的だが、「辞書に登録されていない用語は誤認識する」としている。

議場の臨場感重視

 都道府県では、青森、岩手、千葉、愛知、京都、大阪、和歌山、佐賀、長崎、鹿児島の10府県議会の本会議で速記を採用している。

 京都府は鹿児島県と同様、方言の表現を重視。同府議会事務局担当者は、京都の言葉に独特の抑揚や固有の表現があるとし、「今の音声認識システムの精度では、正確な議事録を残せず、修正する方が手間がかかる」と明かす。岩手県も、方言を議事録に残すことで、議場での「臨場感」を打ち出しているという。

 日本速記協会(東京)によると、1890年(明治23年)の帝国議会開設に合わせ、貴族院と衆議院で速記を採用。国会では現在、衆院では残すが、参院は昨年11月に廃止した。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください