京アニ事件5年「作品に込められた想いや志、未来へ」…第1スタジオ跡地で仲間らが追悼
読売新聞 / 2024年7月18日 14時30分
国内外にアニメを送り届けてきたクリエイターらの命が奪われた京都アニメーション放火殺人事件から18日で5年。残された社員たちは、大切な仲間を失った悲しみを抱えたまま、少しずつ前を向いてきた。現場で営まれた追悼式で、仲間の志をつなぎ、アニメ作りを続けていくことを誓った。(京都総局 森谷達也、相間美菜子)
「この場所でたくさんの作品を生み出してきましたね」。午前10時半過ぎ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオ跡地で始まった追悼式。非公開で行われ、京アニによると、弔辞に立った社員の代表は、祭壇に向かってそう語りかけたという。
5年前、アニメ作りの拠点だった第1スタジオが炎と煙に包まれた。犠牲になったのは、監督や背景、色彩設計などそれぞれの立場で作品を支えた仲間たちだった。今はない3階建てのスタジオには所狭しと机が置かれ、京アニのモットー「よってたかって作る」を形にしたような職場だった。
「ここに根ざした思い出がたくさんあるほど、失われたことの悲しみを感じずにはいられない」。社員はそう語り、「時間によって傷が癒えることがなくとも、作品を作り続ける限り、作品に込められた
この後、遺族の代表と八田英明社長があいさつに立った。
京都府宇治市の「お茶と宇治のまち歴史公園」では、今月14日に完成した「志を
碑は、事件を後世に伝えるため、京アニや遺族らでつくる有志の会が制作。犠牲者数と同じ36羽の鳥が空に向かって羽ばたく様子を京アニ社員がデザインした。
仕事を休んで訪れた京都府亀岡市の女性(22)は「10年くらい前から京アニのファンで、今日はこれまでの感謝を伝えに来た。これからも毎年この場所に来て、事件を決して忘れないようにしたい」と碑に手を合わせていた。
京アニは、周辺住民への配慮から、スタジオ跡地に訪れないようファンに呼びかけ、宇治市の碑でも献花を控えるよう求めている。
たけちんのシナリオ一冊に
「らき☆すた」などで監督を務めた武本康弘さん(当時47歳)と兵庫県立赤穂高校で同級生だった男性(52)はこの日、京都府宇治市の「志を繋ぐ碑」を訪れた。
武本さんは高校時代、文芸部に所属し、2年時に部長を務めた。あだ名は「たけちん」。部室では毎日のように絵を描き、男性は「当時から絵が飛び抜けてうまく、周囲に楽しんでもらおうというこだわりもすごかった」と振り返る。
卒業後も文芸部仲間で定期的に顔を合わせた。京アニで次々とヒット作を生み出す武本さんは仲間の誇りで、事件が起きた2019年の正月も地元で集まった。忙しそうにする武本さんは中座し、男性が車で送った。「次に会えるのは1年後かな、2年後かな」。それが最後の会話となった。
武本さんとの一番の思い出は、高2の冬に部室で夢中になって遊んだテーブルゲームだ。参加者が剣士や魔法使いなどの役になり、会話をしながら冒険を進めていくゲームで、武本さんがシナリオを考えた。その内容があまりにも面白く、「記憶があるうちに残したい」と、事件後2年がかりで書き起こし、22年6月、123ページの冊子にまとめた。
「あの仲間たちと冒険に出ることができた幸運、そしてその記憶は私の宝物です」。冊子の後書きにそう記し、裏表紙には武本さんが当時描いたイラストを添えた。
冊子は部の仲間に配った。ページをめくるたび、「また会いたいなあ……」とやるせなさが募る。
事件から5年。仲間がそろって集まることはなくなった。「文芸部は、たけちんがいてこそだったから」。みなが事件に打ちひしがれている。
男性は、36羽の鳥が羽ばたく碑を前に、改めてこう思う。
「たけちんと出会えたことが、人生で最大の幸運だった」
事件後の入社64人、完全新作は発表なし
事件では、当時176人いた社員の約4割が巻き込まれた。京アニは2020年4月に新規採用を再開。元社員も呼び戻し、現在は約180人にまで回復した。約3分の1の64人が事件後の入社だという。
制作も再開し、事件後の5年間に映画6本、テレビアニメ3本を公表。今年4~6月には、事件前に制作を発表していた「響け!ユーフォニアム」シリーズの続編がテレビ放映された。しかし、いずれも事件前からのシリーズの続編で、完全な新作は発表されていない。
「響け――」では、作品の核となる吹奏楽の楽器のデザインを担ったベテランも犠牲になった。京アニの代理人弁護士は取材に「制作力が元に戻ったわけではない」と語った。
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