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9年で夏休みが14日も短くなった公立校、家計にも効果…「なぜ古賀だけ短いのか」の声に丁寧な説明

読売新聞 / 2024年7月19日 10時29分

教員の働き方改革を進める長谷川教育長(中央)と松本校長(左)、島居校長

 多くの小中学校で夏休みに。福岡県古賀市ではその夏休みが年々短くなっている。9年前は39日間あったが、この夏は25日間。教員の働き方の見直しがきっかけだったが、経済的に余裕がない家庭への支援という効果もあり、県内外の自治体から問い合わせが相次ぐ。(大塚晴司)

 「ずいぶん早いな」。昨年度、市立千鳥小の校長になった松本剛さんは、早い教員は午後5時過ぎには帰り支度を始め、7時頃には職員室がほぼ空っぽになる様子に驚いた。

 教員は放課後、個別の指導や保護者への対応、翌日の授業の準備などに追われ、中学校では部活動の指導もある。長時間勤務が常態化し、深夜に及んだり、日をまたいだりすることも珍しくない。松本さんは市外でも校長の経験があるが、居残る教員たちに「せめて8時には帰ろう」と声をかけるのが常だった。

 「そんな状態で翌朝、笑顔で教壇に立てるのか」。2015年度に教育長になった長谷川清孝さんは、働き方の見直しに乗り出した。まず翌年度、全小中学校の学級を35人以下に。次に、週5日のうち4日、6時間目まで授業があることに着目した。6時間目になると、教員、生徒に疲れが見えた。

 学習効果が低下する6時間目をやめることで放課後に新たな時間を作り出そうと、長谷川さんは校長会と協議を重ね、6時間目の日を段階的に減らしていった。削った授業数を補うため、夏休みと冬休みを徐々に短縮。昨年度から6時間授業を週1日だけにし、夏休みを25日間まで縮めた。

 「時間的にも精神的にも余裕ができ、より細やかに生徒に向き合えるようになった」と、市立古賀北中校長の島居隆浩さんは話す。午後5時前には、全生徒が下校。教員も早く学校を出て保育所に子どもを迎えに行けるようになり、同僚らに気兼ねせず働けるようになったという。

 長谷川さんが「最初は考えもしなかった」という効果も出ている。

 経済的に厳しい家庭にとって、給食がない夏休みは食事を用意する手間や費用が増し、子どもが家にいることで余計な光熱費が家計にのしかかる。

 25日間に踏み切った昨年の夏休み明け、長谷川さんは中学生を育てるひとり親の女性に言われた。

 「お金がないから高校や大学に行かせられないとは言いたくないので、必死に働いています。夏休みが短くなって、学校で子どもを見てもらえ、安心して働けるようになりました」

 古賀市では6時間授業の見直しと並行し、校則の簡素化や部活動の縮小、水泳授業の民間委託など、教員の負担軽減策を次々に打ち出してきた。

 その結果、精神疾患による休職者は大きく減り、20年度以降は22年度の1人だけに。校長との面談で「古賀以外では働きたくない」と言う教員も少なくなく、市外へ転出した教員からは、あまりの労働環境の違いに「古賀に戻して」との訴えも届く。「学校はブラック職場」とすり込まれ、教員になるつもりがないまま教育実習に来た学生が、「ブラックではなかった」と思い直し、採用試験を受けるケースも複数出ている。

 周辺の宗像、福津市や福岡市の今年の夏休みは38日間。独自の短縮に教員の一部には不満もあり、保護者から「海外旅行の選択肢が狭まる」と抗議もあった。長谷川さんや田辺一城市長、市教委は児童生徒や保護者、市民から「なぜ古賀だけ短いのか」と問われることがあるが、丁寧に説けば理解を得られるという。

 「教員にゆとりがあれば、子どもへの教育効果が上がる。仮説だが、学校がストレスのない場所になれば、不登校もゼロに近付けられるのではないか」。長谷川さんはそう語る。

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