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子どもの転落死対策「補助錠」がカギ、安価で手軽に「一人で室外に出られない構造」作り

読売新聞 / 2024年7月21日 10時0分

9歳以下の死者、30年で170件

 住宅で子どもが転落死する事故が相次いでいることを受け、消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)が、物理的に落下を防ぐ「ハード対策」の提言に乗り出す。窓につける「補助錠」を対策の中心に据える見通しで、デジタル技術の活用も視野に入れる。関係省庁への意見書も提出する方針で、担当者は「落ちにくい居住環境の整備が最大の予防策になる」と話す。(糸井裕哉)

注意喚起 限界

 今月2日、札幌市のマンション駐車場で、4階に住む3歳の女児が倒れているのが見つかり、その後、死亡した。外階段から転落したとみられ、自宅で一緒だった母親は体調不良で寝込んでいたという。昨年3月には名古屋市のマンション7階から2歳の双子の男児が相次いで転落死。両親が目を離した間に高さ約80センチの棚に上り、窓の鍵を開けた可能性が高いという。

 事故調によると、1993年から2023年で、住宅からの転落による9歳以下の死亡事故は全国で170件に上った。発生場所はベランダが103件、窓が47件。年齢別で最も多かったのは3歳の50件で、5歳以下が8割超を占めた。

 22年10月以降だけでも、0~4歳児10人が転落死しており、事故調は昨年6月、5歳以下の転落事故を調査対象として選定した。委員長を務める中川丈久・神戸大教授は「行政が『窓の近くに足場を置かない』『子どもを一人にしない』と繰り返し注意喚起しても事故は続発した。ソフト面の対策には限界がある」と話す。

スマホ活用も

 建築基準法は、ベランダの手すりの高さを110センチ以上と規定。だが、子どもの事故防止に取り組むNPO法人「セーフキッズジャパン」の調査では、3歳児の約66%が120センチの手すりを乗り越え、5歳児の約73%は140センチを越えたという。担当者は「指さえ届けば、簡単に上れてしまう。子どもが一人で室外に出られない構造が必要」と訴える。

 事故調はベランダや窓に取り付ける格子やネットと比べ、安価で手軽に設置できる補助錠が現状で最も有効な対策とし、今後は各家庭への普及策を検討する方針だ。また事故調は、子どもが窓を開ければセンサーで保護者のスマートフォンに通知が来るシステムといったデジタル技術を活用した転落防止策も検討中で、今後は海外の安全対策も参考にしながら関係省庁に対する提言をまとめる。

規格統一を

 補助錠や転落防止用の手すりなどの設置を促進するため、国土交通省は22年から小学生以下がいる家庭を対象にマンションなどの改修費を最大100万円、東京都も昨年から同30万円支給している。名古屋市も今年6月から同20万円の支援を始めたが、こうした例はごく一部にとどまっている。

 子どもの転落事故に詳しいセーフキッズジャパンの大野美喜子理事は「補助錠の普及には『この形状の窓は、このタイプ』と誰もが認識できるような規格の統一が必要で、メーカーの協力は不可欠だ。子育て世代への助成を拡充し、何らかの転落防止策の実施を義務づけるのも一つの手段だ」と指摘する。

息子亡くした女性…「国・自治体 力を貸して」

 「どうして鍵をかけていなかったのか。12年間、自責の念が消えることはありません」。中部地方の女性(55)が声を詰まらせた。

 2012年6月、息子の ひかり君(当時4歳)が一戸建て住宅2階の窓から転落死した。当時、光君は高さ約70センチの出窓から布団へ飛び降りる遊びを繰り返していた。仕事と家事で疲れた女性がうとうとしていると、光君の気配が突然消え、閉まっていた窓は開いていた。「ひっか!」と息子の呼び名を叫びながら119番したが、意識は戻らず、12日後に亡くなった。

 喪失感から夫婦でうつ病を発症し、夫は約1年半後に自殺した。笑顔であふれた家族旅行の写真を見ながら、女性は「幸せだった毎日が、あの瞬間から地獄に変わった」と体を震わせた。

 消費者事故調によると、昨年までの31年間に5歳以下が窓から転落死した42件のうち、8割超の34件は保護者の在宅中に起きていた。

 女性は「子どもは頻繁に予想外の行動を取る。でも、親が一秒も目を離さないのは絶対に不可能。物理的に転落を防ぐ仕組みを求める子育て世帯は多いはず。国や自治体はできる限り、力を貸してほしい」と訴える。

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