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角幡唯介さん 「一心不乱に目的地」の旅 変化

読売新聞 / 2024年7月26日 15時15分

『「存在と時間」上・下』マルティン・ハイデッガー著(ちくま学芸文庫) 各1320円

 2011年、最初の北極探検に出た角幡さんは、氷点下40度に及ぶカナダを約100日間かけて徒歩で旅した。乱氷帯を越えながら計1600キロを踏破。だが、GPS(全地球測位システム)を使って目的地までの到達を最優先にする探検には、大きな違和感が残った。「目的地への到達という自己実現欲求のために、一心不乱に歩くだけでは、北極という場所を直線的に通過しているにすぎない」

 一体、自分にとって探検とは何なのか――。「哲学的に位置づけたい」と、人文書を読みあさる中で出合ったのが『存在と時間』だった。第1次大戦後の1927年に刊行されるや、ドイツ哲学界に衝撃を与えたハイデッガー最初の主著だ。

 「相手から影響を受けて自分自身が変わっていく。僕の探検もそういうものを目指しているんじゃないかって、その方が世界の本質に入り込めるんじゃないかって気づかされた本ですね」

 難解な書の全てを理解できたわけではない。それでも胸に落ちるものがあった。文庫で手に入るハイデッガーの著作は完読し、学術書にも手を伸ばした。

「存在を受け止める」ということ

 「つまり“存在を受け止める”ということ。制御できないモノを受け止めたら、自分という人間が変わる。それが僕なりのハイデッガー思想の全体像です」

 やがて探検家は、明確な目的地を持たない旅を始める。「土地に深く潜り込むような旅を模索するようになった」。冬に太陽が昇らなくなる極夜の北極圏を探検しようと、2016年末に、グリーンランド最北端の村を出発し、犬と そりを引いて北上。食料不足に陥りながら、広大な氷原を約80日間かけて踏査した。

 イヌイットと親交を深める中で、現地で頻繁に使われる「ナルホイヤ」(「わからない」の意)という言葉と、ハイデッガーの思想に共通性を見いだしたという。「(不確かな未来を予想して)計画を立てるのではなく、彼らは常に現在の状況に従って動く。これも存在を受け止めるってことですよね」と話す。

 極夜の旅を終え、43歳になろうとしていた。植村直己、谷口けい、河野兵市ら、名のある冒険家や登山家が亡くなった不穏な年齢だった。(真崎隆文)

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