1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「一番弱い庶民が真っ先に見捨てられ、命を落とす」……この夏に読みたい戦争について考えさせられる本

読売新聞 / 2024年7月29日 15時30分

イラスト・大野八生

 毎年夏になるとテレビや新聞で、戦争を扱った番組が放送されたり、記事が掲載されたりする機会が多くなる。戦争は過去のことではなく、ウクライナなどでまだ続いている。この時期は、読み継がれる名作や新作から考えてみてはどうだろうか。(前田啓介)

子どもも犠牲 今ある悲劇

 戦争で亡くなるのは兵士だけではない。太平洋戦争中の1945年3月の東京大空襲では、約10万人が一晩で亡くなったとされる。その中には多くの子どもたちも含まれた。エッセイストの海老名香葉子さんも東京大空襲に遭遇した。その体験をつづった『うしろの正面だあれ』(金の星社)からは、日常が一瞬で奪われる残酷さが伝わる。1985年の発表後、関連本を合わせて累計50万部以上が刊行されている。

 海老名さんは空襲前、家族の愛と友人や近所の人たちの人情に包まれ、明るく育っていた。海老名さん自身は疎開していて無事だったが、大空襲によって両親ら家族6人を失い11歳で戦災孤児になった。詩情あふれる文体から悲しみがあふれ出る。

 終わってからも戦争は、悲惨な出来事を招く。今年4月に刊行された児童文学作家の高橋うららさんの『おとうとのねじまきパン』(合同出版)は、それを実感させられる。日本人が多く住む満州(現中国東北部)にソ連軍が侵攻してきたのは、終戦直前のことだった。物語は当時、満州に住んでいた少女「和子さん」の体験をもとに描かれる。

 日本人は逃げ惑い、敗戦後は食べ物がなく困窮した。和子さんの弟の「亮一くん」も「おさとう」を欲しがりながら、パンを二口だけ食べて亡くなった。高橋さんは、「一番弱い庶民が、真っ先に見捨てられ、負傷したり、命を落としたり、性被害にあったりします」と述べる。

 太平洋戦争が終わってからも朝鮮戦争、ベトナム戦争などが起こった。戦争は、過去のことになっていない。2022年2月にロシアがウクライナを侵略して始まった戦争はまだ続いている。パレスチナ自治区ガザでも戦闘が行われている。

 ロシアの軍事と安全保障に詳しい小泉悠さんが監修する『僕らは戦争を知らない』(Gakken)は、なぜ起こるのかを分かりやすく伝える。国と国とが政治的な立場の違いや宗教、民族の違い、領土や資源を巡る問題で対立し、それを解決する手段として武力を伴う行為に発展すると戦争になると説明する。

 小泉さんは「大人が一生懸命やっても解決しない問題が戦争だ。残念ながら今の子どもたちは、安全保障や軍事的対立と無縁でいられなくなっている。その現象をよく見るきっかけにしてほしい」と呼びかける。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください