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ブルボン宮殿に6競技のビーナス像、込められた様々な思い…「見ろよビーナス!?」

読売新聞 / 2024年7月22日 20時19分

カラフルな6体の像が並ぶブルボン宮殿(7月20日、パリのブルボン宮殿で)=深井千弘撮影

[パリ五輪こぼれ話]

 フランスと言えば、6~7月に行われた国民議会(下院)の選挙も最近、日本で話題になりました。その議事堂となっているのが、パリ中心部のセーヌ川近くに立つブルボン宮殿。フランス政界中枢の一つも今、オリンピックの盛り上げに一役買っています。

 古代ギリシャの神殿を思わせる歴史的建造物の前に並ぶのは、カラフルな6体の像。ボクシングのグラブを付けてファイティングポーズを取ったり、サーフボードを抱えたりしています。よく見ると、どこかで見覚えのあるような……。そう、ギリシャ彫刻の傑作「ミロのビーナス」とそっくりです。

 4月から展示されているこれらの像を制作したのは、パリやマルセイユで活動するフランス人造形作家のロラン・ペルボスさん。国民議会から昨年、オリパラ期間中に作品を展示する提案を受けたそうです。古代彫刻とスポーツを結びつけるアイデアが思い浮かび、題材として直感的に選んだのが、パリ・ルーブル美術館に収蔵されているミロのビーナスでした。「(19世紀初めに)ギリシャで発見された時から両腕がなく、元々どういう姿だったのか多くの仮説が生まれました。その想像を膨らませて、現代社会に投影したんです」

 創作する両腕の形が本物の像の胴体とうまく調和するよう、ペルボスさんはテニス、サーフィン、バスケットボール、アーチェリー、ボクシング、陸上・やり投げの6競技を選びました。それぞれのトップ選手をモデルに、腕の形を立体的にスキャン。3Dプリンタで鋳型をつくって胴体部分と組み合わせ、アクリル樹脂で成形しました。高さ約2メートルのサイズは、本物と同じです。ここまで細部にこだわったのは、「女神がスポーツをするなら、完璧な動きをするはず」だから。「スポーツの世界でも、勝利を決定づける見事なプレーが生まれた時には、『神様のおかげです』と言いませんか」

 一見、パロディーのようで、実はペルボスさんのメッセージも込められています。赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の6色は、権利の平等や差別との戦いを象徴する「虹」の色を意味するのだそうです。虹と言えば、国によって表現する色の数が異なりますが、「特定の社会や文化、伝統にとらわれないよう、あえて6色を選んだ」とのこと。アーチェリーの像だけ右腕が欠けているのにも、理由があります。「片腕の射手のビーナスを提示することで、パラリンピック精神も表現したかったんです」。アーチェリーと思いきや、実はパラアーチェリーでした。

 フランス政治の殿堂に居並ぶ色とりどりの女神たち。日本で言うなら、国会議事堂の前に国宝級の仏像を模した作品を並べるような感覚でしょうか。近くに住むフィリップ・カドシュさんは「3週間ぐらい前に初めて見たんだけど、五輪の開幕が近づいてきたから、もう一度、見に来たんだ。面白い像だよね」と、ひとしきり写真を撮っていました。18世紀末のフランス革命にルーツを持つ国民議会。「ここはフランスにとって、とても大切な場所。そこに展示されているという意味も大きいんだ」と力説してくれました。

 オリンピック期間中、国民議会はあいにく閉鎖されていますが、「ミロのビーナス」たちは道路からでもはっきり見ることができます。もしオリンピック観戦でパリを訪れる機会があれば、ぜひ。

 見ろよ、ビーナス――。(デジタル編集部 深井千弘)

 パリオリンピックを巡る様々な話題を、ユニークな視点で随時お届けするコーナーです。

ふかい・ゆきひろ 1977年生まれ。2000年に入社し、地方支局や運動部などを経て、2022年からデジタル編集部。オリンピックの取材は3年前の東京大会に続いて2度目。好きなフランス映画は「最強のふたり」。

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