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「コンビニ富士」幕で隠したらインバウンド客3割減、混乱防止に効果…専門家は「生活と観光の両立模索を」

読売新聞 / 2024年7月23日 15時50分

 富士山の眺めを隠すため黒幕が張られた山梨県富士河口湖町の「ローソン河口湖駅前店」周辺の人流データを読売新聞などが分析したところ、黒幕設置後はインバウンド(訪日外国人)の来訪が約3割減ったことがわかった。混乱を防ぐため一定の効果があったとみられるが、専門家は「住民の暮らしと観光客の満足度を両立させる方法を今後も模索する必要がある」と指摘する。(大重真弓)

 レンタルした浴衣姿でポーズを決める母娘や、黒幕に開けられた穴からスマホのカメラをかざす男性――。

 町が黒幕を設置してから1か月が過ぎた先月22日も、同店周辺には、富士山がローソンの上にのったようなユニークな写真を撮ろうと多くの観光客が集まっていた。ただ「撮影スポット」となっていた町道を挟んだ反対側の歩道には、幅約20メートルにわたり、高さ2・5メートルの黒い遮光ネットが張られ、警備員も配置されていたため大きな混乱は見られなかった。

 読売新聞は、位置情報分析サービス会社「クロスロケーションズ」(東京)に依頼し、黒幕の設置日(5月21日)の前後40日間の訪日外国人の動きを調査。同店周辺の100メートル四方内で確認されたスマホの位置情報に基づく人流データを分析した。訪日外国人が対象で、国内居住者は含まない。

 その結果、黒幕設置後の5月22日~6月30日の訪日外国人は、設置前の4月11日~5月20日に比べて31・7%少なくなっていたことがわかった。

 観光客によるゴミの放置や違法駐車に悩まされてきた近所の歯科医院は「迷惑行為は絶えないが、以前に比べるとだいぶ落ち着いてきた」と話す。町観光課の外川正和課長は「肌感覚では3割以上減った。黒幕の設置に加え、警備員を配置した効果があった」と話した。

 富士河口湖町を訪問する外国人観光客は、富士山が世界文化遺産に登録された2013年以降、増加傾向で、同店にも多くの外国人が来店していた。

 町によると、22年秋頃、海外のインフルエンサーがSNSで写真を拡散し、同店は人気スポットに。クロスロケーションズの人流データでも、店周辺の訪日外国人は22年11月から増え始め、黒幕が設置される前の月の24年4月、ピークを記録していた。

 訪日外国人の国・地域別では、コロナ後は台湾、タイ、香港の順に多いことも判明した。23年1月には、タイの人気俳優も訪れて富士山とローソンを背景にした「自撮り」写真をSNSに投稿しており、ブームに拍車をかけたとみられる。

 東洋大の古屋秀樹教授(観光行動分析)は、富士山の写真を撮影するため、無理に道路を横断する観光客が多いことが最大の問題だったとしたうえで、「黒幕の設置は、撮影スポットへの立ち入り禁止措置に相当し、交通安全を確保するという意味で効果があった」と評価する。

 一方で「せっかくの来訪者であり、経済効果や町への満足度の上昇も期待できるため、黒幕の設置以外の選択はなかったのかと感じる。外国人の立場からすると、期待がかなわず、残念だろう」と指摘する。

 そのうえで「別の場所に撮影スポットを用意し、PRするといった対処案も考えられる。市民生活や自然環境、景観を守りつつ、訪れた旅行者にも満足してもらえるような対策を模索してほしい」と話す。

各地でオーバーツーリズム

 日本政府観光局によると、1~6月の訪日外国人客は1777万7200人で、上半期として過去最多だった。特定の場所に集中し、住民の生活に悪影響を及ぼす事態が各地で起きている。

 オーバーツーリズム(観光公害)に詳しい日本総研の高坂晶子主任研究員は、「自治体や観光局は問題が起きてから慌てて対応するのではなく、窓口や担当者を決めておいたり、参考になる事例や施策を把握しておいたりする危機管理が重要だ」と指摘する。

 危機管理には、SNS分析による旅行者の好みの把握や、AI(人工知能)で将来的な来訪者数を予測するなど新技術の活用を推奨する。その上で「何よりも地域を大事にする住民の思いを観光客に伝え、協力を求める取り組みが欠かせない」と語る。

 ※分析には、クロスロケーションズが提供する訪日外国人の人流分析サービス「LAPインバウンドウィジェット」を利用した。スマホアプリから許可を得た上で位置情報を取得し、エリアと期間を指定して人流を調べるもので、データは匿名化されている。

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