「巨人の4番は聖域」勝敗背負い・球界のエースと闘い…原辰徳前監督、岡本和真が語る「誇りと重み」
読売新聞 / 2024年7月27日 11時0分
創設90年の歴史上、90人を超える選手たちが読売巨人軍の4番打者に名を連ねてきた。新たな4番は「第○代」と称され、かつては「球界の4番」とも目された。川上哲治、長嶋茂雄、王貞治に次いで、1000試合以上その座を託された原辰徳前監督(66)が、「聖域」と表現する「巨人の4番」を打つ誇りや喜び、重圧について語った。(敬称略)
原辰徳…1066試合出場、第48代
喜び「長嶋さん、王さんと同じ4番」
〈1980年シーズンを限りに、長嶋監督が勇退し、王が現役を引退した。翌年、ONが一線を退いた巨人に若きスターがドラフト1位で入団する。原辰徳だ。新人王に輝き、8年ぶりの日本一奪還にも貢献した〉
最初はレギュラーを取れるか不安もありました。でも一緒に練習しているうちに、「そんなに負ける先輩たちはいないな」と感じましたね。
〈82年6月4日の広島戦(広島)で、初めて4番に入った〉
昔は、スタメン(発表)は当日だったと思う。たぶんミーティングで知ったはず。「えーっ」と驚いたし、「長嶋さん、王さんと同じ4番かあ」というような喜びはありましたね。
〈83年は初の開幕4番から100試合以上務め、打点王に。チームをリーグ優勝に導き、セのMVPにも選ばれた。84年、入団時に助監督を務めていた王が監督に就いた〉
王さんから「中心打者、4番打者というのは、特に巨人軍の場合は常にゲームに出続けるのが重要だ」と教えられました。ファンは遠くからも見に来てくれる。そのことを強く感じて野球をやる。そして「チームの勝敗を背負う責任からは、もう逃れられない」ということを言われましたね。
4番を長くやっていく中で、その大変さ、重責というものが、野球に対する姿勢も正してくれた。僕がたまにしか出ない選手だったら、果たしてあれだけバットを振っただろうか。その環境というものが、今日の自分を作ってくれました。
〈打てなければ、厳しい批判にさらされた〉
風当たりは確かに厳しいものがあった。でも幸いバッターは、3打席で1本(打てれば)と、ミスも当然というのが寛容な部分。あまりネガティブには考えずに、「僕しかいないでしょ」みたいな、ずうずうしさは持っていました。
北別府学、小松辰雄、津田恒実…力と力の勝負
〈北別府学(広島)や小松辰雄(中日)ら名だたるエースが立ちはだかった〉
巨人戦は必ずエースが来るんだから(笑)。ローテーションも変えてくる。当時は、テレビ中継も巨人戦が中心だったから。でも、力対力の勝負という点では、短かったけれども津田(恒実=広島)でしたね。
〈津田は剛速球と強気の投球スタイルから「炎のストッパー」と呼ばれた。原は86年9月の対戦で左手首を骨折し、その後も痛みに苦しめられた〉
津田はいつものようにすごいボールを放っていた。僕は(その前から)実は手首が痛くてね。もう、7割くらいの力で小手先みたいな野球になっていた。でもあいつも全力だし、「もう(手首は)どうでもいい、俺も全力で行くぜ」と、バチンと振ったらバキンとね(折れた)。全く悔いはなかった。そういう気持ちにさせる投手でした。
監督ではなくファンが決める
〈原は95年に現役を退いた。引退セレモニーでは「巨人軍独特の
巨人の4番は監督が決めるものではない。ファンが決めるポジションである。どれだけそれを自負しながら戦うか。よく何代とか言われるが、少なくとも300試合から400試合、先発メンバーで打った人じゃないと4番とは言ってはいけないことですよ。
〈2002年からは3期、通算17年間、監督として巨人の指揮を執った〉
ラミレスは喜怒哀楽を出さず、常にいいモチベーションで戦っていた。松井(秀喜)には孤高の強さがあったね。2人はどういう状況でも、逃げも隠れもしなかった。4番を育てられるのかは分からないけれど、監督として、そういう選手と出会えるかどうかは大事でしょうね。サポートはしても、大きくなれる人は、おのずとどんどん大きくなっていくと思いますね。
〈米大リーグでは大谷翔平のように2番や1番にチーム屈指の強打者が座る傾向が見られる〉
4番が中心であることに変わりはない。勝敗を背負うからこそ、長嶋さん、王さんは打てない時は何とも言えない悔しがり方をしたし、「次は絶対打ってくれる」という期待感を持たせてくれた。僕もそうだし、松井、(高橋)由伸、(阿部)慎之助もそうでした。
〈14年のドラフト会議で原監督が獲得を熱望した岡本和真が、不動の4番へと成長を遂げている〉
4番の和真を作ったのは由伸です。監督として2年目、3年目で彼を作り上げた。和真は数字的にも素晴らしい選手。ただ、人生は常に勉強だから。まだまだ成長し、さらに上へ階段を上ってほしいですね。
第89代・岡本和真…本塁打数はすでに歴代4位
抜てき事前に知らされず
巨人の歴代4番にそうそうたる顔ぶれが並ぶ中、ひときわ目を引くのが、今まさにその重責を担う岡本だ。本人は「すごい方たちばかりで全く及ばない」と謙遜するが、28歳でありながら、4番での本塁打数は歴代4位、出場試合数と打点は同5位の数字に達している。
第89代4番となったのは、高卒4年目となる2018年6月2日のオリックス戦だった。当時の高橋由伸監督から抜てきについて事前に知らされることはなかったが、それが良かった。「やりやすかった。『4番だから』と言われたら、嫌だったかもしれない」と、21歳11か月だった頃の記憶を思い起こす。
もちろん、緊張感はあった。巨人の4番にかかる重圧については、何度も耳にしていたからだ。一方で、「そういうのに負けたくないという意地もあった」。二回の第1打席、いきなり左翼席上段まで飛ばす豪快なアーチを描いてみせた。
その後、32打席連続無安打というスランプを経験。9月には死球で右手親指を骨折する悲運にも遭ったが、出場を志願して4番の座を守り通した。最終戦では2本塁打を放って100打点に到達。この年、初めて全143試合に出場して打率3割9厘、33本塁打という好成績を残した。
色々言われても「この世界では当然」
不動の4番であればこそ、ファンやメディアからは厳しい視線が注がれる。当然、好不調の波はあるが、どんな時でも結果が求められ、自分が打てずに敗れてしまえば、真っ先に批判の対象となる。
それでも、「人に何を言われても何も思わない。だって、言っている人より絶対に頑張ってますもん」と意に介さない。「色々言われるのは、この世界では当然のこと。それが嫌なら、辞めたらいいのにと思いますけどね」。主軸の覚悟はとっくに定まっている。
理想の4番像を問われると、「本当に難しい。人それぞれできることが違う」と前置きした上で、きっぱり言った。「やっぱりね、僕は本当にとにかく打ちたいなって思う。打てば、勝てば、喜んでもらえるんで」。いつの時代も4番はチームを背負っている。
阿部監督も伝授、4番の気構え脈々と
巨人の野手出身監督は、ほとんどが現役時代に4番を経験していた。第6代の水原茂や第66代の高橋由伸もそうだ。第45代の中畑清、第69代の小久保裕紀ら、他球団で監督に就任している例も少なくない。巨人の4番は、日本球界の顔となる人材の宝庫とも言える。
伝統球団で4番を任される重圧について、阿部監督は「言葉で言い表すのは難しい。経験した人にしか分からないものがある」と言う。扇の要を担いながら、505試合で4番も務めた。「やはり、ここぞという時に打てなかったり、ファンのため息を聞いたりした時は、たまらなくなった」と振り返る。
自らを初めて4番に据えた原監督(当時)の言葉が心に残っている。「全てにおいて、手本にならなくてはいけない。本塁打を打つだけが4番ではない」――。岡本には同様の期待を込め、「みんながおまえのことを見ているぞ」と声をかけているという。4番の気構えは脈々と受け継がれている。
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