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初速は時速500キロでも「急減速」するバドミントン、流体力学の先生に理由を解説してもらった

読売新聞 / 2024年8月3日 17時12分

 パリオリンピックで日本選手のメダル獲得が期待されるバドミントンは、「最速の球技」と言われる。スマッシュの最速記録は時速565キロ。まさに「目にも留まらぬ速さ」だが、縦13メートルほどのコートをリニア中央新幹線の営業速度より速く行き来していては、競技として成立するのは少し難しい。それでも、試合で激しいラリーが続くのは、相手側コートに到達する頃には急激に減速するからだ。なぜそのように減速するのか。知っているようで知らない減速の力学について専門家に話を聞いた。(デジタル編集部)

ほかの球技の速度は?

 まず、バドミントンが他の球技に比べてどのくらい速いのかを調べた。ギネス世界記録を見ると、卓球は時速116キロ、テニスのサーブは時速263キロと、バドミントンには遠く及ばない。また、力自慢の猛者が激突する「氷上の格闘技」アイスホッケーのシュートは時速177キロ、大谷翔平のメジャー自己最速打球速度は時速191キロだ。400ヤード(約366メートル)も飛ばす選手がいるゴルフでも、最高は時速349キロ。いかに、バドミントンが特殊なのかわかる。

隙間が生み出す空気の流れが鍵

 スポーツ用品大手ヨネックスによると、バドミントンの試合で使われるシャトルは、半球状のコルクに16枚の羽根を取り付けたものが使われる。公式戦で使われるシャトルには、ガチョウなどの水鳥のものを使用しているという。羽根の軸の強度が強いことが理由で、大きさや形状、取り付ける際の重なり方にも取り決めがある。

 今回、バドミントンのシャトルの減速について解説してもらったのは、宇都宮大工学部の長谷川裕晃教授(流体工学)。シャトルの減速メカニズムのほか、スポーツ流体力学の分野では水泳時の推進力に関する研究などもしている。

 長谷川教授は、「高速で打ち出したシャトルが減速するのは、羽根の付け根部分にある隙間が大きな理由」と話す。隙間をテープで塞いだシャトルと、塞いでいない通常のシャトルを風に当てた実験(風洞試験)を行うと、空気の流れ方に大きな違いがあることが分かったという。大学内には人工的に台風並みの強風を起こす実験装置があり、訪問した7月中旬も、学生たちが熱心に実験していた。

 隙間がある通常のシャトルの場合、羽根の外側に沿って流れる空気のほかに、隙間から入ってシャトルの中を通る流れができる。この二つの流れはそれぞれ速さが違い、また、シャトルの後方では空気の渦ができている。そして、その渦にはシャトルの中を通ってきた空気が次々合流していくため、渦は強められていく。台風でも見られるように、渦がある場所では圧力が低くなるため、渦とその周囲には圧力差が生まれる。シャトルの進む先は高、後ろは低。その圧力差の影響で進行方向の逆側に力が働くことになり、減速していくという。

ショットの正確性には左右非対称な羽根が影響

 急激に減速しても、有力選手が打てば、シャトルは狙ったところにしっかり打ち込める。その要因は、やはり羽根の形状にある。長谷川教授によると、シャトルの羽根一枚一枚を見ると、形が左右非対称になっている。この非対称な16枚の羽根が少しずつ重なり合うように配置されていることで、対戦相手側から見て時計回りに回転しながら飛んでいく。回転することでシャトルの軌道は安定するという。

減速しないとマッチョが有利?

 シャトルが減速し、狙ったところに打てることでバドミントンは緩急をつけた試合ができるようになり、戦略の幅が広がると言える。もし、減速しない場合は、より強くシャトルを打った方が勝つ競技になる可能性が高い。長谷川教授は、「シャトルに穴がなかったら、より強くスマッシュができる方が有利になっていたかも」と想像する。つまり、マッチョが有利ということだ。しかし、緩急をつけられることで、大柄でパワフルな欧米人よりも器用なアジア人向きの競技になったのかもしれない。実際、世界ランキングを見てみると、小柄なアジア勢が多く上位に並んでいる。

 日本バドミントン協会の担当者は「バドミントンは緩急で揺さぶりをかける競技で、減速をしないシャトルというのは考えられない」と語る。また、「シャトルが減速するからこそ、レクリエーションなど誰でも楽しめる競技になっている。男女の差も少ないからこそ、男女混合という種目もできる」としている。

 世界のプレーヤーたちの技術レベルも年々上がっており、選手たちは、シャトルの軌道をより自由自在に操ることができるようになっている。長谷川教授はパリオリンピックについて、「年々競技は魅力的なものになっていて、プレー中に信じがたいシャトルの軌道が生まれるかもしれません。そうなれば、またその謎を科学的に解明したいですね」と話している。

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