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受信料不払い増加のNHK、「やるべきことは一つ」と会長は旗を振るが…20年前の“不公平感”再燃も

読売新聞 / 2024年7月27日 7時3分

 3年の任期の折り返し地点を今月迎えたNHKの稲葉延雄会長が24日の定例記者会見で、番組制作費の適正化など任期後半に向けての抱負を語った。ただ、先月公表された決算で明らかになった契約総数の減少や受信料の未収(不払い)件数の増加傾向を踏まえての営業施策については、「受信料の支払いに納得いただけるよう働きかけることを諦めない」と述べるにとどまった。受信料値下げの影響で1000億円の支出削減が求められるNHK。財源である受信料の公平負担徹底と確実な収納は可能なのだろうか。(文化部 旗本浩二)

稲葉会長、任期折り返し「大いに達成感を感じている」

 稲葉会長は昨年1月に就任。元日本銀行理事で、アサヒビール元会長の福地茂雄氏(2008~11年)以来続く外部出身のトップだ。会見では、昨年秋の受信料1割値下げの影響で財政が 逼迫 ひっぱくする中で策定した24~26年度の中期経営計画、改正放送法成立によるインターネット業務の必須化、人事制度改革などの成果を踏まえ、「前半戦はきちんとした答えを出すことができ、大いに達成感を感じている」と語った。

 その上で「メディア業界全体を 牽引 けんいんし、日本の経済全体にも参考になるような取り組みにも挑戦したい」として三つの目標を掲げた。まずは「番組制作に関して、業界の基準になる適正な価格設定が行われるようマーケットを形成する」。これだけ聞くと、財政難の折、複数の外部制作会社を相手にした入札制度の拡充により、番組制作費を引き下げる、との意味に捉えられそうだが、井上樹彦副会長の補足説明でようやく に落ちた。

 「(会長発言は)人件費を下げるとか制作費を下げるとかいうのでなく、むしろ逆で、日本のコンテンツ力向上のために制作力をもっときちんと評価できないかという趣旨。たとえ優れた番組を作っている人材がいても、(従来の商慣習では)正当に評価されないこともあるのではないか。そうした人材や制作会社を評価することで、日本のコンテンツ力を強化していくという考え方」。志のあるクリエイターにとっては、願ったりかなったりだろう。

 2点目は、喫緊の課題である生成AI(人工知能)などを使ったフェイク映像対策。稲葉会長は「デジタルコンテンツの信頼性向上をはかり、ネット空間での情報の健全性を高める取り組みに積極的に参加していく」とした。最後に「日本人の視座を世界に発信することを通じて国際社会に新たな視点や解釈を供給して、国際世論の健全な形成に貢献していく」と指摘。それらを推進する前提として「公共放送NHKとしてどうあるべきか、どうあらねばならないかという本質的な視点を常に忘れないようにしていきたい」と述べた。

「営業改革の効果がまだ出ていない」

 昨年10月からの受信料1割値下げを受け、NHKは今年度から3か年は赤字予算を組み、27年度に事業支出5770億円で収支均衡させる方針だ。23年度予算と比べると事業支出は1000億円の削減となり、受信料収入が改善しない限り、その後も同程度の財政規模で運営せざるを得ないとみられる。

 放送法では、テレビ所有者は受信契約義務を負う。そんな中、先月公表された23年度決算によると、年度末の受信契約総数は4107万件で、19年度末と比べて4年間で100万件以上減少していた。契約対象となるテレビ保有世帯が減っていることや、そもそも日本の総世帯数自体が減少傾向となっていることからすれば、契約総数の減少はやむを得ない面もある。

 一方、NHKと契約を結びながら1年以上支払いのない「未収」は昨年度末、166万件で、72万件だった19年度末と比べると倍以上となっている。コロナ禍が要因の一つだが、24年度に入ってからも4、5月の2か月間で1万件増え、167万件となっている。稲葉会長は「営業改革の効果がまだ出ていない」とも指摘する。未契約者や未収者に対してNHKはこれまで、営業スタッフが訪問するなどして契約や支払いを促してきたが、これに要する経費が高すぎるとの批判が根強く、昨年度、外部の専門会社による契約収納活動を終了。できるだけ人手をかけない営業に転換したのだが、それが成果につながっていないというのだ。

 昨今の物価高に加え、テレビ離れも追い打ちをかけており、一度NHKに背を向けた未収者を振り向かせるのは容易でない。この点、稲葉会長は「やるべき方法は一つ。NHKの出しているコンテンツをよく知っていただき、『なるほど』と受信料支払いに納得いただけるよう働きかける。それを諦めないことだ」と強調した。NHKのあり方や番組内容に納得がいかないから不払いにつながった人々も多く、確かに会長の言うように“諦めない”姿勢は不可欠だろう。

担当理事を絶望させた20年前の悪夢

 ちょうど20年前の04年7月、NHKでは、番組チーフ・プロデューサーによる制作費着服が発覚。その後も不祥事が相次ぐなどして受信料の未収が急増した。当時の海老沢勝二会長の引責辞任にまで至ったが、未収は増える一方で、05年度末決算では359万件にまで達した。悪夢のようにとどまるところを知らぬ未収に、当時の営業担当理事は「絶望感を覚えた」と明かしたが、実はその頃、契約者が支払いを拒んだのは、不祥事そのものより、「隣が支払っていないのに、なぜうちだけ払わねばならないのか」という受信料支払いの不公平感に基づいていた。

 そこでNHKは、契約者が不払いに転じやすい営業スタッフの自宅訪問による集金を廃止して口座振替など確実に収納できる仕組みを構築。さらに簡易裁判所を通じた民事督促手続きも導入した。こうした未収抑止策が功を奏し、未収件数は19年度までは順調に減少していただけに、たとえコロナ禍がきっかけだったとしても今の増加傾向を座視するわけにはいかない。稲葉会長も「重大だと思う。もう少し厳密な分析が必要ではないか」と指摘する。

「どうあるべきか本質的な視点を…」と肝に銘ずるなら

 かつての不払い急増時には、管理職による不払い者に対する“おわび行脚”も行われており、幹部の中には「当時の苦しみを知らない職員が増えているし、そもそもテレビがあれば契約義務を負う受信料制度を理解していない若手職員もいるのではないか」といぶかる声もある。

 ネットが進展した今、テレビを持たない選択をする人も増えており、未収者もそちらに流れる可能性がある。そんな人々に「NHKの番組は優れている」といくら訴えかけても効果がどれほどあるだろうか。このまま未収が増え続ければ、受信料支払いに対する不公平感が再燃する恐れもある。他方、まさに稲葉会長自身が「NHKとしてどうあるべきか本質的な視点を常に忘れないようにしたい」と肝に銘ずるのであれば、未収者増加が意味するものは何か、改めて真剣に考えてみてもいいだろう。

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