平和五輪提唱者でフランス出身のクーベルタン、子孫はウクライナ侵略・ガザ攻撃嘆く…初の選手の男女同数は歓迎
読売新聞 / 2024年7月27日 0時39分
近代五輪の提唱者でフランス出身のピエール・ド・クーベルタン(1863~1937年)一族の子孫であるジャック・ド・ナバセル氏(78)が読売新聞に手記を寄せ、パリ五輪への思いをつづった。
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今月5日、パリ五輪の聖火がフランス北西部ノルマンディー地方ミルビルの森を駆け抜けた。立ち寄った16世紀建造の古城は、クーベルタン男爵が幼少期と青年期を過ごし、一時期は生活の拠点にもしていた場所。現在はクーベルタンの姉のひ孫にあたる私が当主として城に暮らし、管理している。彼の故郷で100年ぶりに五輪が開かれることに一族の子孫として大きな感慨を覚える。
彼は、身長1メートル63と小柄な「プティ・ムッシュー」(小柄な男性)だったが、エネルギッシュで好奇心旺盛だった。スポーツを通じた祖国の教育改革を志し、英国や米国で見聞を広めた青年期にミルビル城で暮らしていた。庭の池でボートをこぎ、冬に凍ればスケート、ボクシングにも関心を示した。
彼は、平和のための近代五輪を創始した人物として知られるが、同時に、スポーツと教育を結びつけた第一人者でもあった。スポーツが健全な「体」を作るだけでなく、努力を惜しまず、自分自身の限界に挑戦し、一方で他者を尊重し、フェアプレーを大切にする豊かな「心」を育てること――。今では当たり前になっている「スポーツの価値」を彼が世に知らしめた。
クーベルタンが提唱したオリンピズムの考えは現代社会でさらに輝きを増している。彼は五輪によって世界中の若者たちが出会い、相手をよく知り、互いに認め合うことで相互理解を深めようとした。
古代ギリシャでは「五輪期間中の休戦」があった。彼は近代五輪でも同じことをしようと試みた。だが、今はどうか。ロシアによるウクライナ侵略、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃など痛ましい出来事が続く中で、パリ五輪が開かれる。和解の一つのきっかけにしなければならないし、クーベルタンのゆかりの地で行われる五輪だからこそ、世界に平和を訴える舞台になってほしい。今こそ発信するべきメッセージだと思う。
歓迎すべき進歩もある。今大会は史上初めて、男女同数の選手の出場が見込まれる五輪となる。1924年パリ五輪に出場した女子選手はごくわずか(全体の4%、135人)だったが、当時の時代背景を考えれば仕方のないことだった。
「クーベルタンは女子の五輪出場に否定的だった」という言説があるが、それは少し違う。当時は医学界の権威ですら、激しい運動は女子にとって危険なものだと主張していた。女子が男子同様にスポーツを行うには、多くの時間が必要だったということだ。
1900年、1924年に続く3度目のパリ大会が、彼の功績と五輪の価値を再び見直す機会となることを願ってやまない。
ジャック・ド・ナバセル 1946年6月26日、パリ生まれ。1863年生まれのクーベルタンの姉のひ孫にあたり、一族で結成する家族協会の創設メンバー。ミルビル城当主として城に暮らし、管理する。
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