新直木賞作家、一穂ミチさんは大きなマスク姿で記者会見場に……なぜ文学の世界に覆面作家は増えるのか
読売新聞 / 2024年7月31日 10時28分
覆面作家続々「作品見て」 芥川賞・直木賞候補にも3人
今月17日に選考会が行われた芥川賞・直木賞は、候補の作家10人のうち、3人が顔を明かさない「覆面作家」だった。『ツミデミック』(光文社)で直木賞に決まった一穂ミチさん(46)は、大きなマスク姿で記者会見会場に現れた。仕事への影響やデビューの仕方の変化なども影響しているようだ。
記念撮影に一穂さんは、マスクで顔を覆ったままで応じた。普段は会社に勤め、一貫して顔出しを控えてきた。「基本的には顔面NGでお願いしたい。マスクがギリギリ。今後もこういう機会があればマスクをお許しいただければ」と、記者会見で配慮を求めた。
選考委員は「覆面」に理解を示した。直木賞の三浦しをん選考委員は「私自身が小説家になった時は、絶対に顔出しする感じで、それが嫌だった。雑念を読者に与えることをせず、作品を楽しんでほしいと思う人もいる」と話した。
会社員生活に影響 匿名のウェブ小説出身
『令和元年の人生ゲーム』で初の直木賞候補になった麻布競馬場さんは、会社勤めの傍らで「覆面作家」として活動する。「顔を出さないで、物を書いたり意見を言ったりするのは無責任」と批判されることがあるという。
「作家活動と会社員活動を明確に分けておきたい。顔を出してる、出していないというのは、あまり書くものに対して影響を与えない」と語り、「僕よりももっと深刻な理由で顔を出せない人たちも、気軽に物を書けて発表できるようになればいい」と期待を寄せる。
一方、近代日本文学には、私小説のように、作家の生い立ちや生き方に立脚し、小説を書く系譜がある。
今回の芥川賞は直接の私小説でなくても、書き手の人生が深く作品に根を張り、小説とその背後に見え隠れする作家の顔が、混然一体となって魅力を醸し出す作品が並んでいた。
芥川賞に決まった朝比奈秋さん(43)は医師として働く。受賞作「サンショウウオの四十九日」は、体が半分ずつくっついた「結合双生児」の姉妹を描いた。命の現場にいた人らしい実感があった。松永K三蔵さん(44)の受賞作「バリ山行」は、自身の趣味の山登りが作品に生かされていた。
受賞は逃したが、ロックバンド「クリープハイプ」で活躍する尾崎世界観さん(39)の「転の声」は、声の不調を抱えるバンドボーカルの焦燥を描いた。
川上未映子選考委員は朝比奈作品を「書き手が医者で知見が発揮されている」、尾崎作品を「専門性の高い小説を書く時に、レポートになってしまうともったいないが、表現と自意識について書かれた作品がたくさんある中で、こういう小説は読んだことがなく満足した」と評した。
これに対し、「海岸通り」で初候補になった坂崎かおるさんは「(教育関係の)本業に差し支える」と顔は出さず、「作家性より作品を見てほしい」との思いから、中性的な筆名を使う。
覆面作家が候補に多く選ばれた背景には、力のある作家が出版社の新人賞ではなく、顔出しを前提としない文化圏から多く生まれていることもある。一穂さんはBL(ボーイズ・ラブ)小説出身で、坂崎さんはウェブメディア主催の文学賞出身、麻布さんはツイッター(現・X)小説出身だ。
文芸評論家の田中和生さんは「かつては、思想・信条を言うことが作家の後押しになる時代があったが、分断の時代では、そうした風潮はなくなった」としたうえで、「顔をあわせて同じ空気を共有する文壇意識が消えつつあることの表れでもあるだろう」と話す。
謎めいて ミステリー界は定着
ミステリーやライトノベルなどの分野で、顔や経歴を公表しないまま活動することは、一つのスタイルとしても定着している。
メフィスト賞でデビューし、人気作家へと駆け上がった西尾維新さんをはじめ、同じ賞から登場し、2022年のミステリー作品『
「メフィスト」の小泉直子編集長は「ミステリーの分野において、作家の存在自体が謎めく分には、いくらでも構いません。歓迎しています」と語る。(真崎隆文、川村律文)
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