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角幡唯介さん 生と死の相克 冒険は続く

読売新聞 / 2024年8月2日 15時15分

『金閣寺』三島由紀夫著(新潮文庫) 825円

 2019年に43歳を迎えた。植村直己、谷口けい、河野兵市ら、名だたる冒険家や登山家が命を落とした年齢で、「43歳の落とし穴」と勝手に名付け、身構えていた。焦燥感に駆られた探検家は「社会システムの外側に飛び出す」ために、北極圏で 犬橇 いぬぞりでの探検を始めた。

 旅に出ると、時に2か月近くも極地を漂泊する。アザラシや 麝香 じゃこう牛を狩り、慣れ親しんだ土地をひたすら広げていく。「土地と同化、調和しながら野生の世界に身を深く沈めて狩りをすることが (だい) ()味。心身に染み着いた21世紀的な、令和的な価値観を脱ぎ捨て、自分をイヌイット化させるということですね」

 旅では原則、GPS(全地球測位システム)や衛星電話を携帯しない。「動物を殺す以上は殺される可能性を担保しないといけない」との思いからで、「人間世界とのつながりは、野生に入っていない証拠」と語る。

 一方で、40代半ばになり、身体的な衰えを感じ始めた。ふと45歳で自決した三島由紀夫が気になって、読み返したのが『金閣寺』だった。 吃音 きつおんに悩む学僧・溝口が金閣寺とともに滅びるために寺の放火を企てる物語で、一人称の告白体で つづられる。

「43歳の落とし穴」と三島の自決が結びつく

 傑作を再読し、「43歳の落とし穴」と三島の自決が結びついたという。「若い時は、肉体と経験が膨張し、自分が求めるゴール(目標)も膨張していく。それが43歳を機に肉体的な力が衰え、設定していたゴールも縮小して人生が撤退戦に入る。膨張する過程での死は美しい。三島は年齢にこだわっていて、(45歳での自決には)まだ間に合うという思いがあったはず」

 『金閣寺』のラストでは、寺に火を放った溝口が自らの命を絶つため、3階の 金箔 きんぱくが貼りつめられた 絢爛 けんらんな小部屋へと向かう。だが、扉が開かず、思いを果たせないまま生きる決意を固める。「三島は、人間は生きている限り、死に到達できないという真理を書いた」と読み解く。

 「冒険は、どんなに激しい行動を起こしても、生きて帰ってくると、やりきってなかったんじゃないかって感覚が残る。生の完全燃焼ポイントである死と、自分の生きている現状との距離に苦しむわけですよ」。生と死の相克の中で、これからも旅は続く。(真崎隆文)(おわり)

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