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ウクライナ侵略後、「エンターテインメントに興味が持てなくてノンフィクションなどを読んでいた」……東山彰良さん戦争と向き合う新作

読売新聞 / 2024年8月5日 15時30分

主人公の少女・ビビウは17歳。「若い世代の目から、戦争という不条理をとらえてみたかった」=野口哲司撮影

呪術師少女活躍 戦争描く…『 () (こう) のビビウ』刊行

 繊細な青春小説から、ミステリーやSF色のある (ゆう) (こん)なエンターテインメントまで、多彩な作品を手がけてきた東山彰良さん(55)が、長編小説『 () (こう)のビビウ』(中央公論新社)を刊行した。内戦中の架空の国を舞台に、死者を操る呪術師が活躍する。ファンタジー的な設定を通じて戦争に向き合った。(川村律文)

 「戦争を背景に、異常な状況下での人間の勇気や、家族、信念などの大切なものを描きたかった」と語る。本作を構想したのは、コロナ禍と、ロシアによるウクライナ侵略で、世界が揺れていた時期だった。「エンターテインメントに興味が持てなくなって」戦争に関するノンフィクションなどを読んでいたという。

 高齢の独裁者が君臨する連邦の軍と、独立を求める自治州の反乱軍が (たい) ()する夜の荒野。鈴の音に導かれた死者たちの隊列が静かに進んでいく場面で、物語は幕を開ける。

 「戦争は気にかかっていたのですが、正面からその題材に向き合うには、勇気が足りないし、覚悟も持っていなかった。架空の国を舞台に、エンターテインメントの要素を足すことで、少しは書きやすくなった」

 その隊列は、邪行術を使う少女・ビビウが率いている。邪行師は、「 冥客 マロウド」と呼ぶ死者たちの魂を一時的に呼び戻し、自らの足で家に帰らせる。中国に伝わる死者を歩かせる呪術のイメージを加え、練り上げられたストーリーが展開する。

双方の視点で

 ビビウらが暮らす自治州の独立を巡る内戦は (こう) (ちゃく)状態にあり、正体不明の殺人集団も幅を利かせる。

 〈正しい戦争なんてない〉〈間違っていることを正すためには、自分も同じくらい間違わなくては太刀打ちできないこともある〉

 ビビウの言葉が印象深い。「反乱軍にも残虐性があるし、政府軍にも心優しい人はいる。我々は戦争を一方の視点で見がちだが、 (あい) ()れないものが見えているという当たり前のことは表現したかった」。中でも、死とともに在る邪行師たちは、独特な存在だ。周囲の人に畏怖されると同時に、忌避され、さげすまれる。「自治州だってみんなが優しかったわけでも、パラダイスでもなかった」。やがて、大規模な事件が起き、邪行師たちも戦争の渦中に放り込まれていく。

 重苦しいばかりの作品ではない。青春小説のようなさわやかな挿話が随所に織り込まれ、マンガに関するポップな描写も加わる。哲学者のニーチェやロシアの作家、ザミャーチンなどの (しん) (げん)も登場する。ビビウや、マンガ好きの大伯父、若き政府軍中尉らの視点を通じて、不条理な世界のドラマが鮮やかに立ち上がる。

デビュー20年超

 作家デビューから20年を超えた。これまでテーマなどを意識したことはなかったが、近年、自分の小説の底流に「あきらめる」という言葉があると考えるようになった。「日本語だとマイナスのイメージがあるかもしれないけれど、中国語で同じような言葉だと、くよくよしない、気にしないようにするという意味になる。そんなにネガティブではない」

 自らの作品を振り返っても、文明が崩壊したディストピア的な世界を舞台とした『ブラックライダー』や『罪の終わり』などで極限状態を描きながら、その中でたくましく、したたかに生きようとする人々を造形してきた。「(米国の作家)コーマック・マッカーシーやチャールズ・ブコウスキーなど、好きな小説や映画にもその傾向がある」と語る。

 本作もまた、その系譜に連なる作品だろう。登場人物の一人が、わずかな光を見いだすラストシーンは、叙情的で、美しい。「現状を受け入れて、その先にあるものを見つめる。あきらめの中に、救いが見いだせる物語にしたかった」

お気に入り

★「パタゴニア」のTシャツ 涼しいので気に入っていて、模様や色が違うものを3枚ぐらい持っています。外に出かけるときに着ていますね。ちょっとダボダボしたものを着るのが好きなんです。

★コーヒーミル 初めて買ったコーヒーミルを、今でも愛用しています。仕事の休憩時に、やる事があった方が、ちょっと切り替えができる。無心でガリガリ豆をひくのは、割と好きです。

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