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兄と妹で「トレーニングは別々」、阿部きょうだいのトレーナー「一緒だと詩が張り合ってしまうので」

読売新聞 / 2024年7月30日 10時11分

寺田健太郎さん(7月1日午後7時11分)=深井千弘撮影

[パリ五輪こぼれ話]

 28日に行われたパリオリンピックの柔道男子66キロ級で五輪連覇を果たした阿部一二三選手は試合後のインタビューで、女子52キロ級に出場した妹・詩選手のことを何度も尋ねられた。東京大会に続く同日金メダルを目指したものの、2回戦敗退に終わった詩選手の結果は、一二三選手にとっても衝撃だった。「妹の負けがこんなに悔しいものなんだなって…。この3年間、練習やトレーニングは別だけど、思いは一緒だった」

 「トレーニングは別」と聞いて、記者(=深井)には、2人をよく知る人物が思い浮かんだ。阿部兄妹のフィジカル面の強化を担当するトレーナーの寺田健太郎さん(31)だ。大会前、兄妹のこれまでの取り組みについて尋ねると、やはり「トレーニングの時間帯は別々にしている」と答えたうえで、その理由も教えてくれた。「そもそもスケジュールが異なるということもあるんですが、(兄妹で)一緒にやると、詩は張り合ってしまうからなんですよ」

オーバーワーク気味に

 性別や体格、年齢が異なれば、フィジカル面の差があるのは当然。同じトレーニングを課しても、兄の一二三選手は余裕を持ってこなす。足腰を鍛える階段ダッシュや、筋力・持久力を養うサーキットトレーニングなど、与えられたメニューを予定より多めにこなすこともある。しかし、そんな兄を見ると、詩選手は負けじと同じ量に取り組もうとすることがあるのだという。寺田さんが続ける。「女子選手としては、しっかりしたフィジカルの強さを持っているのに、(兄より)足りないと感じてオーバーワーク気味になってしまうので、時間をずらすようにしているんです」

泣くのは今じゃない

 時に周囲がブレーキをかけた方がよいと感じるほど負けん気が強い詩選手の敗戦を、一二三選手は、ウォーミングアップ会場のモニターで目にしていた。「練習で、自分の負けを想像することはあっても、妹の負けを想像したことはなかった。妹が泣いている姿を見て、どういう感情を持ったらいいのか、と僕も思った」。それでも初戦を前に、気持ちはすぐに切り替えた。「泣くのは今じゃない。僕は絶対に足をすくわれてはいけない」

 ほどなく一二三選手の戦いが始まった。初戦、試合開始からわずか1分で合わせ技一本。これで勢いづき、圧倒的な強さでトーナメントを駆け上がった。試合時間4分で決着がつかず、ゴールデンスコア方式の延長戦にもつれ込んだのは、準決勝の1試合のみ。パリで畳に上がったのは、4試合で計10分26秒だった。

妹の思いも背負う

 胸元からまばゆい光を放ちながら、一二三選手は言葉を継いだ。「妹の思いも背負って、最後まで戦い抜こうと覚悟を決めた。妹の負けで一層、気を引き締めることができた」。3年前からは一つ減ったにしても、兄妹二人でつかみ取った金メダルに違いない。(デジタル編集部 深井千弘)

 パリオリンピックを巡る様々な話題を、ユニークな視点で随時お届けするコーナーです。

ふかい・ゆきひろ 1977年生まれ。2000年に入社し、地方支局や運動部などを経て、2022年からデジタル編集部。オリンピックの取材は3年前の東京大会に続いて2度目。好きなフランス映画は「最強のふたり」。

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