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体操の杉野正尭、天に向かって雄たけび…亡き父に誓った演技・仲間を鼓舞

読売新聞 / 2024年7月30日 13時18分

 亡き父の応援があったから、この舞台にたどりつけた。演技を終えると、雄たけびを上げた。幼い頃、会場に響いた父の声援のように。体操男子団体の杉野 正尭 たかあき選手(25)がその声で、演技で仲間を鼓舞し、2大会ぶりの金メダルに貢献した。(蛭川裕太)

 最終種目の鉄棒で、重圧のかかる1番手を務めた。高難度の手放し技を次々に決める。着地も成功させると、ガッツポーズをしながらほえた。高得点をマークし、チームを勢いづけた。

 3兄弟の末っ子で、兄2人を追って地元の津市のクラブで体操を始めた。体は硬く、飛び抜けた運動能力があったわけではない。「兄ちゃんにできることは俺もできる」。負けん気の強さは人一倍だった。

 見守ってくれたのが、父の忠さん。独学で技の名前を覚えた。息子たちが夢中になる競技の魅力を知りたかったのだろう。体育館の端で、逆立ちをしたり、トランポリンで跳ねたりしていた。

 「自分を力強く後押ししてくれる一番の理解者だった」。どんな大会にも駆けつけ、ビデオカメラを回した。会場ではいつも、「ガンバ!」と誰よりも大きな声で叫ぶ。動画で演技を見返しながら、晩酌するのを楽しみにしていた。

 小学生の時、父は大腸がんを患った。中学1年の頃に再発し、肺などに転移が見つかった。父は息子たちの大会の応援に行けるよう、投薬治療や検査入院の日程を組んだ。

 「息子たちが頑張る姿に力をもらっていたんでしょう」と母の祥子さん(59)は言う。高校2年の12月、父は「3人仲良く、やりたいことを最後までやりなさい」との言葉を残し、旅立った。50歳だった。

 葬儀が終わり、兄と誓った。「お父さんがあれほど応援してくれた体操を頑張るしかない。天国のお父さんにいい演技を見せよう」

 鹿屋体育大(鹿児島県)に進み、1年の「全日本種目別選手権」のあん馬で優勝。夢だった五輪が目標に変わった。だが、前回の東京大会の選考会は、わずかな差で落選した。

 昨年の世界選手権の代表にもなれなかった。「俺が行かなきゃ誰がパリに行くんだ」。奮い立ったのは、ずっと応援してくれた父に最高の舞台で戦う姿を見せたいとの思いがあった。

 代表入りのため、この1年は得意の鉄棒とあん馬を重点的に練習。大会では、種目が終わる度に雄たけびを上げ、気迫をより前面に出すようになった。チームへの貢献度が高いとして、団体メンバーに選ばれた。

 この日、スタンドでは忠さんの遺影を抱えた祥子さんら家族が見守っていた。

 試合後、杉野選手は「東京の時の悔しさをバネにやってきて、本当に良かった。感謝でいっぱいです」と語った。その首には、父に応援してもらった時から夢見た金メダルがかかっていた。

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