自民「最大派閥」は草刈り場に…安倍氏亡き後、統制とれず
読売新聞 / 2024年8月3日 5時0分
[政治の現場]総裁選前夜<5>
真夏日の強い日差しを浴びながら、自民党元総務会長の福田達夫(57)は沈痛な表情を見せた。
「あなたがいなくなった穴はこの2年間、開きっぱなしで、本当に多くを失ってきました」
元首相の安倍晋三の三回忌を迎えた7月8日。福田は、安倍派(清和政策研究会)に所属していた中堅・若手約20人で山口県長門市の墓所を訪れ、こう報告した。その言葉には、政治資金規正法違反事件による打撃の大きさと無念さがにじんでいた。
2000年以降、森喜朗(87)、小泉純一郎(82)、安倍、福田康夫(88)と4人の首相を輩出し、最盛期は100人に達した「最大派閥」は今や見る影もない。
絶大な存在感を持っていた安倍の死後、派内は混乱を極め、後継の会長も決められない中で、派閥パーティー収入の組織的な不正還流が発覚した。原因究明などの有効な対応は何一つとれないまま、閣僚らは更迭され、派閥解散が決まり、35人が処分を受けた。
プリンス
安倍亡き後の統制のなさを象徴するかのように、三回忌での行動もまとまりを欠いていた。
山口に向かった福田らのグループとは別に、処分を受けて離党した元経済産業相の世耕弘成(61)を中心とする参院安倍派の約30人は奈良市の銃撃事件現場に足を運んだ。一方、保守系有志議員でつくる「保守団結の会」で共同代表を務める衆院議員の高鳥修一(63)らは奈良市の霊園で安倍の慰霊碑に献花した。
派内では、9月に予定される総裁選を控え、四分五裂の状況を危惧し、福田に「ベテラン組と一線を画した新たな固まりを作ってほしい」との期待感が出ている。祖父で元首相の赳夫は安倍派の源流・福田派の創設者だ。父の康夫を首相秘書官として支えた後、政界に入り、当選4回を重ねた福田は「プリンス」として、将来のリーダーと目されている。
ただ、事件の逆風は依然強く、福田は「今回はおとなしくしておくべきだ」と周囲に漏らし、表だって動くことに慎重な姿勢を崩していない。
「HKT」
「総裁選は権力争いで甘いものじゃない。軽い気持ちでうろうろするのはマイナスになる」
7月8日夜、元国土交通政務官の佐々木紀(49)ら中堅・若手約10人が東京都内のホテルの中華料理店で総裁選を見据えた対応を話し合っていると、遅れて顔を出した前政調会長の萩生田光一(60)はこう語り、渋い表情を見せた。
萩生田は派閥中枢を占めた「5人衆」の1人で、慕う議員が多く、派閥横断的なつながりも持っている。
茂木派で元官房長官の加藤勝信(68)、二階派で元総務相の武田良太(56)とは菅内閣の閣僚時代から連携を維持し、その頭文字から「HKT」と称される。
萩生田は首相で党総裁の岸田文雄(67)とひそかに首相公邸で面会を重ねて関係を保ちつつ、HKTを含めて一定の数をどう束ね、影響力を発揮するか、模索を続けている。
5人衆で前官房長官の松野博一(61)は地元・千葉での活動に専念している。松野の周辺は「官房長官に登用された義理は重い」と指摘し、岸田が再選出馬すれば、支持する可能性が高いと解説した。
悲哀
派の大勢は、総裁選での支持候補を見定められていないのが実情だ。処分を巡って岸田に恨みを募らす者はいるものの、安倍と折り合いが悪かった元幹事長の石破茂(67)や、デジタル相の河野太郎(61)を敬遠する声も多い。
閣僚経験者は「清和会は総裁選で各陣営が集票を競う『草刈り場』となり、派閥がなくなった悲哀を実感するだろう」とため息をついた。
かつて最大派閥として栄華を誇った竹下派(経世会)は、その後の橋本派(平成研究会)時代、会長の橋本竜太郎が2001年総裁選で小泉に敗れたのをきっかけに転落し、清和会が台頭した。
副総裁の麻生太郎(83)は岸田派を解散する意向をいち早く表明し、安倍派解散の流れを作った岸田について、皮肉交じりに周囲にこう評した。
「小泉は経世会を壊し、岸田は清和会を壊した」
次期総裁選は日本のかじ取り役を決めるだけではなく、派閥の栄枯盛衰を映す歴史的な機会ともなる。(敬称略、おわり)
(この連載は、海谷道隆、中田征志、土居宏之、梅本寛之、樋口貴仁、田ノ上達也が担当しました)
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