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戦時中の「国策紙芝居」に「一同涙を流して感激」「面白さが少なかった」…「感想録」に市民の声

読売新聞 / 2024年8月5日 5時0分

戦意高揚のため多くの紙芝居が製作された。「軍神の母」(上2枚)は特に人気を集めた。「爪文字」は「陸軍省報道部推薦」(東京都豊島区の「子どもの文化研究所」で)

 第2次世界大戦中、戦意高揚を目的に全国に普及した「国策紙芝居」について、地域での上演の状況や観衆の反応を記録した「感想録」が、香川県坂出市の博物館で見つかった。神奈川大の研究グループの調査によるもので、戦時中の軍部や政府の「プロパガンダ」への一般市民の反応がまとまった形で明らかになるのは、極めて珍しいという。

 「紙芝居感想録綴」と「教育紙芝居貸出簿」各1冊を保管していたのは、同市の鎌田共済会郷土博物館。大正期に地元の実業家が私立図書館として開設した。国策紙芝居を調査する神奈川大の研究者らが昨年、関連資料について問い合わせ、感想録などの存在と内容が判明した。

 同館に紙芝居の現物は残っておらず、戦後に処分されたとみられる。同大の調査によると、戦時中は少なくとも56種類を所蔵し、1943年1月から終戦直後の45年9月までに計約230回、1団体に3冊まで貸し出された。

 図書館は返却時に所定の紙に観覧人数や感想などの記入を求めており、利用団体の代表者らが提出した計約160件の報告書を じて感想録として保管。記入したのは町内会や地域団体、学校などの関係者で、地域のリーダー的な人物が紙芝居の上演を担ったことが分かる。

 子どもの集会のほか「隣組」の会合などで大人も対象に上演された。周辺地域の延べ2万人以上が観覧したとみられ、農村部では1回の貸し出しで千数百人が観覧し、「娯楽」として歓迎された面もあったようだ。

 貸出回数が多いのは、真珠湾攻撃で戦死した軍人の母を賛美する「軍神の母」、食料増産を訴える「お米と兵隊」などで、「時節柄国民の思想善導に大いに役立ち貢献すると思います」「一同涙を流して感激」など肯定的な感想が多く寄せられた。一方、窮乏生活の中、貯蓄などの戦争協力を露骨に求めた作品には「一般感激する所少なし」「面白さが少なかった」などの苦言も率直に記され、「検閲」などをそれほど意識しない様子もうかがえる。

 同大の新垣夢乃助教は「感想録から紙芝居を利用した人々の実像と素朴な反応が伝わってくる。今後は当時の地域の状況を分析する必要がある」として学生と現地調査を進めている。

 今回の調査に携わり、国策紙芝居に詳しい大串潤児・国立歴史民俗博物館教授は「紙芝居は映画などに比べて簡単に上演することができ、政府や軍部のプロパガンダとしても幅広く利用された。感想録からは紙芝居への様々な反応がうかがえ、戦時下の生活に対する一定の『不満』も見て取れる。戦争の実情や政府・軍の政策を民衆がどう受け止めたのかを分析する上で他に例のない貴重な史料だ」と指摘する。

 ◆国策紙芝居=1938年頃から終戦にかけ、戦争協力などを訴える内容で少なくとも数百種類、数十万部が印刷され、各地で販売されたとみられる。街頭紙芝居とは異なり、大人が対象の内容も多く、地域の会合、学校などで上演された。普及ルートなど未解明な部分も多い。戦後に大半が処分され、神奈川大非文字資料研究センターなどが各地に残るものを収集している。

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