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元「谷根千」編集者、迷わず5分で移住を決めた「御城番ライフ」…三重・松阪の重要文化財

読売新聞 / 2024年8月5日 14時15分

 東京下町の暮らしや歴史を紹介した地域誌「谷中・根津・千駄木」(通称谷根千=やねせん)の編集者の一人だった山崎範子さん(66)が三重県松阪市の御城番屋敷に移り住んで1年余になる。発見と感動の日々に「路地という路地を歩き尽くす」と、松阪にフリー編集者の目を向ける山崎さんに“御城番ライフ”を聞いた。(聞き手 三木修司)

――2022年11月、大正大学が発行する雑誌の取材で相可高校(三重県多気町)を訪ね、初めて松阪にも立ち寄られたそうですね。

 「取材を終えた帰路、特急の待ち時間が1時間ほどあり、松坂城跡の周辺を散策しました。パッと目に飛び込んできたのが御城番屋敷です。長屋に沿った石畳と、手入れが行き届いた生け垣のマキ……。すべてが輝いて見えた」

 「(市が借りている)公開住居を見学しながら『いいなあ。住んでみたいなあ』とつぶやいたら、屋敷を管理する合同会社・ 苗秀社 びょうしゅうしゃの方が『今なら空いていますよ。どうぞ』と声を掛けてくれた。『国の重要文化財に住めるの』って驚いた。築160年、8畳4間という伝統の田の字型住宅で土間や庭も付いている。迷うことなく5分で決め、有頂天で特急に乗りました」

――23年5月に移住。移動手段は徒歩と自転車、公共交通ですね。

 「松浦武四郎記念館(小野江町)まで伊勢街道の約9キロを2時間以上かけて歩いたこともある。途中にあるお伊勢参りの宿場だった六軒町は楽しかった。住民の方が道をよく整備され、昔の看板や屋号が木の札で案内されていた。こっちは風呂屋、あっちは油屋……。昔の家並みが朽ちることなく2、3キロは続いている。常夜灯もありますね」

 「でも、松阪市街から記念館までバスが出ていない。シャトルバスぐらいないのか。そんな話を本居宣長記念館(殿町)の館長だった吉田悦之さんにしたら『志のある人は歩くのです』と返されました。松阪に来て初めて、すごいことを言う人に出会いました(笑)」

 「今年の春、吉田さんにご一緒して、宣長が歩いた『山の辺の道』をたどりました。奈良県桜井市から天理市まで歩いた。朝8時半に出て夕方5時に着いた。宣長が日誌に残した行程は、吉田さんの頭の中にすべて入っていて、解説が抜群に面白かった。歩数計は何と3万6000歩でした」

――記憶に残る体験を他にも教えてください。

 「酒蔵の新良酒造(大黒田町)は素晴らしい。節分に初搾りがあるというので訪ねると、家の中に案内された。御城番屋敷にお住まいの方が作ったという、木を加工した音響装置の天井スピーカーで音楽を聴かせてくれました。『天から降ってくる音』を聴きながら『夢窓』という銘柄の利き酒をやるのです」

 「塗装屋さんが無料で公開している『タケガワふれあい動物園』(新松ヶ島町)は飼えなくなった動物を引き取っています。大きなリクガメとミニブタが一緒に寝ていた。飯南のサザンカ、飯南・飯高にある櫛田川の八つの沈下橋もいい。伊勢市の映画館・進富座にも歩いて行った。松坂城跡でやっている朝のラジオ体操も欠かしません。松阪移住は大成功ですね」

 ◆「谷中・根津・千駄木」=東京・台東区と文京区の地名を取った季刊誌で、作家の森まゆみさん、仰木ひろみさん、山崎さんの主婦3人が創刊。1984年から2009年に全94冊が刊行され、ピーク時は1万部を超えた。NTTタウン誌大賞、サントリー地域文化賞、山本有三記念郷土文化賞に輝く。

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