２位入賞を経て単行本化に、アニメ化も…やじまさんは「次にくるマンガ大賞ドリーム」を実現した

　一般読者が投票で選ぶ「次にくるマンガ大賞２０２４」の発表が、８月２８日に迫っている。ランキング入りした作品はより多くの人の目に触れるきっかけになる。昨年Webマンガ部門第２位に輝いた『ねこに転生したおじさん』（ＫＡＤＯＫＡＷＡ）は１０月からアニメ化が決まり、作者のやじまさんは「受賞で、認められたという感じがしている」と喜びを語る。（文化部　高梨しのぶ）

ある日おじさんは、猫になってしまった

　おじさんがなぜか、１匹のかわいい猫に転生する。人間として勤めていた会社の社長に拾われ、猫の「プンちゃん」として一緒に暮らすことになるだけでなく、プンちゃんの中身がおじさんだとは知らない社長から、“猫かわいがられ”されることになる――。

　『ねこに転生したおじさん』は、意表を突いた設定と、一目見るだけで忘れられなくなるかわいい猫の絵が、胸にささる漫画だ。

　子供の頃から漫画が好きで、松本大洋さんのファンだった。これまでは、スマートフォンで縦に読む漫画「ウェブトゥーン」の会社で、漫画をほかのメンバーと共同制作してきた。その後、ひとりの漫画家として作品を描きたいという思いが強まり、ＳＮＳ上に一枚絵の投稿を始めた。昨年２月、猫の背後におじさんを描いた絵が“バズり”、「おじさんが猫に転生したように見えた」ことから、この作品が生まれた。

　作品はＳＮＳに投稿する形で連載してきた。昨年、「次にくるマンガ大賞」を受賞し、「投票の１００％が、ＳＮＳで読んでくれた人からのものということになる。読んだ上に、投票までしてくれたと思うとうれしい」と顔をほころばせる。受賞後に、夢だった単行本の刊行も実現した。

猫を溺愛する社長のキャラクターにも共感

　転生したおじさんは、プンちゃんになっても中身はそのまま。プンちゃんが登場するコマでは、背後にもほぼすべておじさんが登場し、プンちゃんと同じ表情をする。いつの間にか、プンちゃんだけでなく、背後のおじさんまでかわいらしく見えてくるのも不思議だ。

　ペットを飼う人なら誰でも、社長には共感してしまうのではないだろうか。仕事をしていても、出張中でも、帰りがけにも、ついペットのことを考えてしまう。お利口さんな行動を発見すると「てんしゃい……」（天才）と鼻血を出しながら目を輝かせて溺愛する。読者は、プンちゃんの行動に過剰なまでに反応して、涙目でかわいがる社長を最初は笑っていても、回が進むにつれ、やがては自らも社長と同じ表情で、プンちゃんをめでていることに気づく。

　読者がかわいさに身もだえする表現力の背景について、やじまさんは、「猫の何げないポーズもだが、飼い主さんとの関係性、猫が飼い主さんに向けている信頼や心配の気持ちなども、かわいさの要素として考えている」と明かす。現在は猫を飼っていないが、過去に実家で飼っていた経験がある。知人から猫を預かったり、猫の動画を見たり、飼っている人からの話などを総合して表現している。

自分の用があるときだけ来るのがかわいい

　実は、やじまさんは「猫アレルギー」なのだという。のどのかゆみを感じながらでも接するという、猫のかわいさとはどこにあるのか。「自分の用事がある時だけ来るのがかわいい。遊びたいときだけとか、おなかがすいたときだけとか。わがままとは少し違う、けど用があって来てくれると、とてもうれしい」と、メロメロ加減が伝わってくる。一方、プンちゃんの背後で、眼鏡が斜めにずれたり、あくびしたりしても、なぜかかわいく見えるおじさんの表情は、おじさんにさせたいと思う自身の表情をカメラで写して、参考にしているという。

　「次にくる」第２位を受賞したことが「よりどころになっている」という。「漫画賞に出すような尺ではないし、応募していいのかと思ったが、いただいて良かった。『見ましたよ』と声をかけていただいたり、認められているという感じがしている」と話す。

　ＳＮＳ連載のため、コメント欄には、読者からのメッセージがダイレクトに寄せられる。プンちゃんの、あまりのキュートさに、社長でなくとも思わず飛びついてしまいそうな瞬間には「社長～わかります」「やみつきになる」「かわいすぎる」などの言葉が並ぶ。「読者さんのリアクションによりかかり、反応をベースに描いている。おもしろがってくれている人がいる限り、やっていきたい」と、力強く宣言してくれた。『ねこに転生したおじさん』は１０月から、フジテレビ系列でアニメ化される。