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[深層一直線]パリ内外 尊重と反目の花…右松健太

読売新聞 / 2024年8月5日 16時38分

安川純撮影

五輪休戦 訴え直後の流血

 うだるような暑さの週末の午後、駅前の生花店の軒先に「よりどり3本1000円」と書かれたポップ看板があった。涼しい店内に誘われるように入ると、ヒマワリなどの夏の花や、バラ、カーネーションなど色とりどりの花が並んでいた。

 決して花の種類に詳しいわけでも、花選びにセンスがあるわけでもないが、あれこれと悩みながら、色も種類も違う3本を選んだ。自宅に帰り、小さな花瓶にそれぞれ一輪挿しにしようとも思ったが、3本の緑の茎をゴムで束ね、細い花瓶にまとめて挿して、窓際に飾った。

 7月26日、「花の都」パリで五輪が開幕した。32競技329種目が実施され、205の国と地域などの1万人を超えるアスリートたちが熱戦を繰り広げている。

 市内中心を流れるセーヌ川を舞台に行われた開会式では、国を象徴する色に身を包んだ複数の国の選手団がひとつの船に乗りこんで、声援に応える場面もあった。その様子は色とりどりの花を一つに束ねてセーヌ川の水面に浮かべたかのように感じた。

 連日行われている各競技では、勝者と敗者とに明暗が分かれるが、試合後、健闘をたたえ合って、握手や抱擁を交わすアスリートの姿は美しい。その美しさは、国籍や人種、宗教、政治的立場を超えて、共通のルールの中で競い合い、互いのプレーを尊重するすがすがしさにある。

 一方、パリの街の外に目を移すと、国際ルールを破り、相手の領土や、歴史を無視した戦争や紛争が続いている。国連総会は昨年11月、パリ五輪大会期間中の休戦を求める決議を採択した。国連のアントニオ・グテレス事務総長は、パリ五輪の開会式に合わせ、「五輪休戦の精神にのっとり、全ての人々に武器を置くよう呼びかける」と訴えたが、その翌日、イスラエル軍はイスラム主義組織「ハマス」の司令部があるとして、ガザ地区中部にある学校を攻撃し、多数の死傷者が出た。

 約2年半にわたるロシアの軍事侵略によって、ウクライナではこれまでに五輪出場選手や指導者、約480人が犠牲になったという。国の花として親しまれるヒマワリ畑は、戦車に踏み荒らされている。

 11月に大統領選挙を控えるアメリカでは、共和党と民主党の両陣営の対立が先鋭化し、互いの支持者同士も反目しあっている。意見や価値観がかみ合わないどころか、前提となる事実や認識すら共有できず、ひとつの世界でも立場の違いによって見え方が異なる「平行世界(パラレルワールド)」のようだと指摘する専門家もいる。まるで同じ部屋の中で、色の違う同種の花が、背を向けて別の花瓶に挿してあるようだ。

 表彰台に立つアスリートたちは、それぞれ異なる土地で育ち、歩んできた過程は違えど、同じルールの中で、高みを目指し、咲かせた三輪の花だ。悔しい2位も、うれしい3位もあるかもしれないが、万感の表情で上を向く立ち姿を、毎夜、目頭が熱くなりながらテレビ越しに見つめている。その傍らで、窓際の花瓶に挿した三輪の花も上を向いて咲いている――。(BS日テレ「深層NEWS」キャスター)

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