夏休みシーズンの読む本に迷ったら「本を紹介する本」……言葉の巧みな江國香織さんの書評、論理が巧みな斎藤美奈子さん
読売新聞 / 2024年8月12日 15時30分
夏休みシーズンを迎え、心に残る読書体験を味わいたいと思う人は多いだろう。書店の棚でどの一冊を手に取ればよいか迷ったら、まず「本について書かれた本」を開いてみたい。作家や評論家の書評集、本に関わる仕事につく人のエッセー集など、読むうちに気になる名著が見つかるはずだ。(待田晋哉)
書評集・エッセーで名著発見
江國香織さんの『読んでばっか』(筑摩書房)は、人気作家の書評や本にまつわる文章を集めた一冊だ。6月の刊行後、すでに3刷を重ねている。
ただ薦めるだけではなく、作品を紹介する際の言葉の彩りや文章の緩急のつけ方が心に残る。中でも、書評の冒頭の言葉の連ね方は、「書き出し力」とでも呼びたくなるほど鮮やかだ。
<美しい言葉や文章が書ける人はたくさんいるけれど、美しい魂をもった言葉を書ける人はごく
<西村賢太の五冊目の小説がでて、私は歓声をあげた。おお! また貫多の心象風景と暮しぶりが読める!>(西村賢太『
まるで江國さんの小説のような深みのある一文や、読者に近い言葉で書かれた軽やかな文章も見つかる。
江國さんの著作が、「言葉」型の紹介とすれば、文芸評論家の斎藤美奈子さんの『あなたの代わりに読みました』(朝日新聞出版)は、「論理」が魅力の一冊だ。政治、社会や芸能など「意識高め」の約150冊分の書評を収めた。
中でも読んでいる文芸書の幅の広さと、分類・分析する手際の良さは際立つ。最近の潮流は恋愛小説が減り、職業小説と高齢者小説が多いことだと指摘する。「文学のトレンドは老後にあり」の項目を眺めると、村上龍さんや垣谷美雨さん、朝倉かすみさんをはじめ、いかに多くの現代作家が中高年について書いているかが実感させられる。
近年は、出版社や書店に関わりがある人たちが自ら本について書いたものも目立つ。島田潤一郎さんの『長い読書』(みすず書房)は4月に出版され、増刷を重ねる。1人で出版社「夏葉社」を作り、作家の庄野潤三さん関連の本を刊行するなど個性的な活動を続ける著者の読書エッセーだ。
大学時代に同級生たちが就職先を決める中で、大江健三郎『芽むしり
三砂慶明さんの『千年の読書』(誠文堂新光社)は、大阪の「梅田 蔦屋書店」の設立から参加した著者の一冊だ。三砂さんも就職に失敗し、ようやく入った会社も1年でなくなった過去があるという。それらの経験を踏まえ、「なぜ人生には本が必要なのか」といった観点から書き進めた。
系統立てた読書に挑戦したい人は、2021年刊の堀内勉さんの『読書大全』(日経BP発行)を手に取りたい。副題に「世界のビジネスリーダーが読んでいる 経済・哲学・歴史・科学200冊」とある。アダム・スミス『国富論』から戸部良一ほか『失敗の本質』まで、知の世界の膨大な地平の広がりを感じ取れる。
「豊かな言葉で生きるため」 堀内勉さん
『読書大全』や『人生を変える読書』(Gakken)の著書がある多摩大大学院の堀内勉教授=写真=は読書は単に読むのが目的ではないと語る。
スポーツが自己流ではなかなかうまくならないように、本もある程度はたくさん読み、知識を蓄えなければ、立体的な読書ができるようにはならないと思う。読んでいると、自分の中に考える材料ができるし、自分なりに良い本を見つけるこつが分かってくる。
読書をするのは、自分なりに豊かな言葉を見つけて生きることが目的であることもわきまえておきたい。
本を読めば、ビジネスの世界で有利に生きられるかなどといった問いは、例えば、「貯蓄より投資が良いのか」「就職より起業の時代か」といったレベルの問いと似ている。企業をはじめ、社会の中で教養がある人がトップに立てば幸せなことだ。でも、現実の世の中はそのようになっていないかもしれない。
それでも本を読み、人類の歴史や英知に触れ、今いる場所とは違う風景を見たいか。最後はその人の生き方の問題ではないだろうか。
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