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「週末のみ営業」「叔父のバーで」……消える書店対策の試金石「まずは開業のハードル下げる」

読売新聞 / 2024年8月10日 7時3分

 かつて気軽に漫画雑誌や文庫本を買ったり、新刊本を立ち読みできたりした「街の書店」が全国の街から次々と消えつつある。全国の4分の1の市区町村が書店のない「無書店自治体」に陥る中で、国内2大出版取次の一つ「トーハン」(東京都新宿区)が、従来より大幅に少ない100冊程度から書店を開業できる取り組み「 HONYAL (ホンヤル)」を始めることに決めた。トーハンの近藤敏貴会長は、「まずは、書店開業のハードルを下げたい」と語る。(文化部 待田晋哉)

気軽に始め、3年でやめたっていい

 書店減少問題に関し、経済産業省は今年3月、「このままでは人々が活字に触れる機会が失われる」と、大臣直属の「書店振興プロジェクトチーム」を設置した。書店は文化の重要な振興拠点であり、書店が減る背景には、本の売り上げに対する書店の取り分が少ない実情があるとの理解も広まりつつある。一方で近藤会長は気になることがあったという。

 「現実には、書店の減少は止まっていないが、今議論されているのは、現在ある書店を廃業させないためにはどうすればいいのかという話。それもやっていくが、もっとプラス思考で、新たに書店を作るハードルを下げる仕組みを作りたいと思ったんです」

 頭にあったのは、米国や韓国で大手チェーンに属さない中小の「独立系書店」と呼ばれる店の活況ぶりだ。品ぞろえを工夫したこれらの書店は、本自体の売り上げは多くなくても、新たな売れ筋のトレンドが起きることがあり、出版界でも注目されているという。

 独立系書店は、日本でも少しずつ存在感を増している。山梨県北杜市の八ヶ岳南麓にある「のほほんBOOKS&COFFEE」は2022年、コピーライターの渡辺潤平さんが開いたブックカフェ。店内には渡辺さんが厳選した約3000冊が並ぶ、ゆったりと心地よい空間だ。近藤会長は同店開業にまつわる渡辺さんの話にも触発され、今回の企画を発案したという。

 「独立系書店の定義がなんなのかという問題はあるけれど、ちょっと暇だから、場所が余っているから、本屋やってみようなんてことがあってもいいのではないか。新たなモデルを考えてみたかった。とにかく始めやすく、3年でやめてもいいような」

 「副業として週末だけ、夢だった本屋に挑戦したい」「叔父が経営するバーの店舗を使って、昼間だけ本屋をやってみたい」――。「HONYAL」に関してトーハンは、こうした今までとは違う書店の開業案をイメージしている。

雑誌も新刊も運ばない

 ただ、このプランを実現するには、本の配送料のスケールメリットの問題があった。

 書店を開くには、出版界の卸業者に当たる出版取次を通して本を仕入れるのが一般的とされる。出版取次は、各出版社が刊行する本や雑誌を自社の倉庫に集め、書店やコンビニなどにトラックで運搬する。大手出版取次はある程度の運搬量がなければ利益が出ず、小規模な書店の開業希望者に対応できなかった。

 これに対し、運搬の対象から毎日刊行される雑誌を除外して単行本に絞り、店に本を運ぶ回数を週1回程度に抑えるという。

 「現在の状況で一番大きな問題は輸配送料。雑誌は毎日発売日があるから、一冊でも持っていかないといけないし、書籍も新刊が出れば輸送料がかかる。(こうしたコストを避けるため)この新たな仕組みでは、新刊を置かない、雑誌も置かない、あなたの好きな本だけそろえますと」

 書店開業のハードルを下げるため、保証金や連帯保証人も求めない。日本でも、小さな取次などを使って独立系書店を営むことは可能だが、幅広い本を扱うトーハンが対応すればより利便性が高まることが見込まれるという。

 日本出版インフラセンターによると、全国の書店の総店舗数は2013年度の1万5602店から、23年度は1万918店となった。減少は深刻化しており、これに歯止めをかけるのが課題となっている。

 「(『HONYAL』を始めても)恐らくうちは、あんまりもうかりません。損はしないくらいだと思う。それでも、なぜやるかというと、(本と人との)タッチポイントを増やしたい。そこで、将来の読者を増やしていきたい。今の読者に、本がいいものだと分かってもらえれば既存の書店のプラスにもなるはず。広告費をかけて進めていきたいと考えています」

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