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日本に復活した現代版下宿「異世代ホームシェア」 高齢者と若者が支え合い、双方がwin-winになる秘密は?(1)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん

J-CASTニュース / 2024年8月6日 20時40分

日本に復活した現代版下宿「異世代ホームシェア」 高齢者と若者が支え合い、双方がwin-winになる秘密は?(1)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん

シニアと若者、一緒に住んで元気に(写真はイメージ)

広い一戸建ての家に1人、あるいは2人で暮すお年寄り。一方、高い家賃に悩む若者。若者が独居老人の空き部屋に住めば、高齢者の孤立化を防げるし、住宅費軽減にもつながり、一石二鳥となる。

第一生命経済研究所の福澤涼子さんが、「異世代ホームシェア」という、世界に広がる血縁関係によらない世代間の支え合いを提言している。

いったい、どんな仕組みなのか。昭和によくあった「下宿」とどう違うのか。話を聞いた。

マッチング業者が、高齢者と学生双方の希望を詳しく聞く

第一生命経済研究所ライフデザイン研究部副主任研究員の福澤涼子さんのリポート「高齢者と若者の共住『異世代ホームシェア』~世界で広がる血縁関係によらない世代間の支え合い~」(2024年7月9日)によると、「異世代ホームシェア」とは、一見、かつての「下宿」の現代版といったかたちだ。

つまり、高齢者が住む持ち家の空き部屋を活用して、血縁関係のない若者と高齢者が共同生活を送る仕組みだ。それぞれが自立して生活することを前提にしつつも、可能な範囲で交流や助け合いを行う。

都市部に住む高齢者の孤立・孤独の解消と、家賃の高さに悩む若者の負担軽減の一石二鳥が目的だ。

高齢者の孤独が深刻になっている欧米諸国では1990年代に始まった。日本では大学が多く「学生の街」といわれる京都府や、首都圏、奈良県、福井県などに広がり始めている。

自治体が主導する先駆的な事例である京都府の次世代下宿「京都ソリデール事業」(『ソリデール』はフランス語の『連帯』の意味)の仕組みはこうだ【図表】。

業務委託しているマッチング事業者が高齢者と学生双方の希望を詳しくヒアリングしてマッチングを行い、生活ルールを一緒に検討したり、面談の場に立ち会ったり、入居後に不満はないか、小まめにアフターフォローをしたりする。ヒアリングの内容は、希望の家賃だけではなく、希望の交流の頻度や生活スタイルも含む。

ときにはお試し同居期間も設けて、慎重にマッチングしていく。家賃は毎月2万5000円~3万5000円ほど。事業が始まった2016年から2023年度末まで合計65組の同居を支援した。

高齢者と若者のホームシェアは多くのメリットがある。

実際、研究員の福澤さんが当事者の話を聞いたケースでは、高齢者が若者からイマドキの価値観やパソコン・スマホの使い方を学んだり、逆に若者が親にはできない恋愛相談をしたりと、「日々刺激を得られる」結果になったという。

熱波で高齢者数万人が死んだ欧州、その反省から広がる

J‐CASTニュースBiz編集部は、第一生命経済研究所の福澤涼子さんに話を聞いた。

――私は70代半ばですが、昭和には「下宿」がありました。地方から上京した学生や若い社会人が当たり前に下宿に間借りしました。上京後、不動産屋を歩いて自分で探したり、大学から紹介されたりしたものです。

思えば、特に女性の場合は、家主のオバサンに郷土の母親代わりに「嫁入り前の娘さんを預かる」という意識が強く、門限を夜8時などと厳しく制限、3回破ったら追い出したりするケースもありました。

そうした昭和の下宿と、「異世代ホームシェア」とは、ズバリどこが違うのでしょうか

福澤涼子さん 門限があって破ったら罰則といった当時の下宿とは大きく異なりますね! 現代の価値観では、そうした束縛の強い下宿はあまり支持されないのかもしれません。ただ、「異世代ホームシェア」は「次世代下宿」とも呼ばれるので、かつての下宿の延長と考えることもできます。

昔は、単身に適したアパートやマンションが少なく、上京する若者が住むところがあまりありませんでした。だから、持ち家の空いている部屋を貸す下宿が、ビジネスとして成立したのでしょう。

今、高齢者の孤立がどんどん進んでいます。「異世代ホームシェア」は、高齢者の持ち家の空いている部屋に若者を住まわせて、若者と交流することで、高齢者の孤立という社会課題の解消を目指しています。また、若者にとっても安く住むことができるので、ウィンウィンの関係です。

改めて昭和の下宿が見直されているということだと思います。

――「異世代ホームシェア」は、ビジネスが主な目的ではないということですね。海外から入ってきたとリポートにはありますが。

福澤涼子さん 1990年代にスペインで高齢者の孤独化を防ぐ社会事業として始まり、欧州に広がりました。2003年に歴史的な猛暑(熱波)が欧州を襲った時、欧州全土で約7万人、フランスでも75歳以上の高齢者を中心に1万4800人が亡くなりました。命を落とした高齢者の大半が一人住まいだったと言われます。

一方、パリなどでは年々家賃が高くなり、若者が市内に住むことが難しくなっています。もし、熱波の時に若者が高齢者と一緒に住んでいれば、多くの命を救えたでしょう。

そこで、フランスの自治体やNPOが中心になって独居高齢者の住宅の空き部屋を若者に安く紹介する「異世代ホームシェア」が進みました。

家主と交流が多いほど、家賃が安くなるフランス方式

――昭和の下宿と違って、ただ若者が空き部屋に住むだけでなく、家主の高齢者と交流することが大切になるわけですね。

福澤涼子さん そのとおりです。フランスの家主さんは日頃から若者と一緒に食事をしたり、話をしたり、交流することを望む人が多いです。

日本ではそういうシステムはありませんが、フランスでは一緒に過ごす時間が多いか、少ないかといった交流の頻度に応じて家賃が変化する仕組みになっているそうです。

もちろん、交流が多いほど安くなります。

千葉大学大学院の丁志映助教の報告によると、たとえば、学生が夕食以降、毎晩高齢者と共に時間を過ごし、週末も家にいるなら家賃が無料に。

学生が定期的に在宅して買い物を手伝ったり、パソコン操作を教えたり、食事を一緒にしたりする、とか、いくつかの段階に分けて家賃の額が決まっています。契約の時に学生がどんな手伝いをするか、自由に選ぶことができます。

――日本ではどうなのでしょうか。家主、若者、それぞれにとって大事なことは何ですか。

福澤涼子さん そもそもの目的が、高齢者の孤立解消ですから、入居する若者はその趣旨をしっかり理解することが前提になります。

家主さんと交流する意思がないと、プログラムには参加できません。「そんな面倒くさいことはお断りだ」「プライバシーを守りたい」という人は、マッチング事業者との最初のヒアリングから外されます。

また、家主さんの側にも、「自分の足腰が弱っているから、若者に助けてもらいたい」とか「いざという時は介護の担い手になってほしい」という気持ちがあっては、参加できません。

お互いに、精神的にも肉体的にも相手に依存しない、「自立した大人同士」の関係というのがプログラムの大前提です。

私が何人かの家主さんや若者にお会いした時も、みな「ほどほどの距離感が大切です」と口をそろえていました。

「ほどほどの距離感」が一番の秘訣

――「ほどほどの距離感」ですか。いい言葉ですね。具体的には皆さん、どんな生活をしているのですか。

福澤涼子さん 東京都に住む70代男性のAさん。お母さんが亡くなった後、家を壊すのがもったいなくて、趣味のDIYを活かして家を自分で建て直しました。1人暮らしは寂しいし、住まいに困っている人を助けたいという気持ちから、家の空き部屋を貸し始めました。かつては、男性や中高年女性も暮らしていましたが、現在では3人の若い女性と同居しています。

Aさんは1階。女性たちは2階でお風呂、トイレ、台所を共用。玄関に目印になる置物があり、それを使った在宅が否かをお互いに知らせ合う仕組みを取り入れています【下の写真参照】。

家賃は、新宿まで電車で40分ですが、光熱費込みで5万円以下。住人のうち1人は、以前若者だけのシェアハウスに住んだことがあり、若者同士の付き合いに負担を感じることもあったそう。こちらは家主さんがお年寄りだから、生活スタイルが落ち着いてリラックスできると言っていました。

――若い人との暮らしは、どういうものなのでしょう?

福澤涼子さん Aさんは毎日挨拶する人がいるだけで、生活に張りが出ると言っていました。最近もAさんがコロナに感染してしまったそうなのですが、住人たちがゴミ捨てを協力してくれたり、励ましてくれたりしたおかげで助かったと言っていましたよ。

<日本に復活した現代版下宿「異世代ホームシェア」 高齢者と若者が支え合い、双方がwin-winになる秘密は?(2)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん>に続きます。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)



【プロフィール】
福澤 涼子(ふくざわ・りょうこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部研究員、慶応義塾大学SFC研究所上席所員

2011年立命館大学産業社会学部卒、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社、2020年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同大学SFC研究所入所、2020年リアルミー入社、2022年第一生命経済研究所入社。
研究分野:育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用。最近の研究テーマは、シェアハウスでの育児、ママ友・パパ友などの育児ネットワークなど。5歳の娘の母として子育てと仕事に奮闘中。

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